菅総理が突然、「再生可能エネルギー法案」を最優先課題として掲げた。
菅内閣になって、政権の最優先課題はコロコロ変わる。昨年夏頃は「消費税10%」、その後「雇用を起点に成長戦略」「公務員人件費削減」、秋になると「TPP」といった具合で、また新しい課題が出てきた。
 
もともと自然エネルギー発電の電力買取りについては、自公政権の末期、麻生内閣のとき、家庭用太陽光発電の「余剰電力買取り制度」を開始した(実施は政権交代後)。
民主党はこれに対し、政権交代前のマニフェストで、「全量買取り制度」を唱え、政権交代後、この方向での検討が進められた。
 
今回の法案は、3月11日の震災直前に閣議決定されたものだが、「全量」か「余剰」かは不明確。経済産業省の報告書によれば、「家庭用太陽光は引き続き余剰買取り」を続ける方針とされる。
菅総理はこの法案が「30年来の信念」であるかのような言いぶりだが、その割には、2年前にマニフェストで掲げたことさえ貫徹されていない。
 
より大きな問題は、この法案では、自然エネルギー発電の買取りによるコストが、そのまま国民(消費者、事業者)に転嫁されるだけになることだ。
買取り制度自体はよいと思うが、それとセットで、電気料金を引き下げる方向の改革も早急に進める必要があるのでないか。
例えば、発送電分離、総括原価方式の見直しなど、長く懸案とされてきた電力事業の構造改革。こうした改革が伴わなければ、電気料金は上がる一方になる。
 
「再生可能エネルギー法案」とともに、政府は「原発賠償機構法案」も早期審議を目指しているという。
この法案も、同じく、電気料金の値上げに直結する。
5月頃、東電賠償支援に関して、「金融機関の債権カットを求めるのか」などが散々問題になったが、今回の法案をみると、債権カット要請の計画だけで、機構からの支援は得られる。こうした支援額も、電気料金の値上げになる。
 
これら“電気料金値上げ2法案”以上に、産業界での不安が高まっているのが電力供給の不透明性だ。
とりわけ、各地の原発で、再稼働に同意しない方針を知事らが示すなど、見通し不明な状況が続くことが大きい。
海江田大臣は「安全」を宣言しているが、これだけで理解を得ることはなかなか難しいだろう。
これまで「絶対安全」のはずだったところで事故が起き、チェック体制にどういう問題があったのかも十分検証されないまま、また同じチェック主体(原子力安全・保安院)が「安全」と言うだけでは、信頼感は乏しい。安全性チェックの新たな枠組み(例えば国会や住民の関与など)を早急に検討した方がよいだろう。
 
すでに問題は東日本を超え、関西の企業でも、電力供給への不安から海外移転を表明するところが現れ始めた。
こうした動きが加速すれば、東日本復興をささえるべき、日本経済全体の沈下につながりかねない。
 
「再生可能エネルギーが優先課題」はいいが、それ以上に、料金と供給の両面における“電力不安”に早く手を打つことが求められるのでないか。
 

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