労働・医療をめぐる呆れた「珍説」

執筆者:山下一仁2011年6月29日

 筆者は、農業政策や通商政策に30年ほど関与してきた。ガット・ウルグアイ・ラウンド交渉では、スイス・ジュネーブで日本全体を騒然とさせたコメの部分開放、関税化の特例措置に関する歴史的な交渉に直接かかわった。このときは1993年10月15日にジュネーブ入りしてから12月15日に交渉妥結を見届けるまで、60日以上も日本に帰らず、土日も朝から夜まで交渉した。WTO(世界貿易機関)、EPA(経済連携協定)、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、OECD(経済協力開発機構)などの交渉にも関わった。ベルギー・ブラッセルのEU日本政府代表部では、3年間EUと折衝し、アメリカの通商政策についても、複数の情報ルートを持っている。これらの知識や経験は一朝一夕に身につくものではない。正直なところ、そうしたものが体に染みついていなければ、様々な国の様々な利益が複雑に絡み合うTPP(環太平洋経済連携協定)などの通商政策についての論考を行なうことは難しいと思う。
 野球の本を読んだだけでは、140キロを超すプロの投手の球は打てない。きちんと打ち返すようになるまでには、素質のある人が小さいころから10年以上もかけて練習しなければならない。しかし、不思議なことに、多くのTPP反対論者たちはそうした知識、経験もないままに、堂々と反対論を開陳しているのである。

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