原発大国フランスにも及ぶ「脱原発」の波

執筆者:三井美奈2011年6月30日
サルコジ大統領は強気だが……(C)EPA=時事
サルコジ大統領は強気だが……(C)EPA=時事

 欧州随一の「原発大国」フランスが、フクシマ・ショックで大揺れだ。電力の8割が原子力という国で、「脱原発」を望む国民が77%に達した。一方、サルコジ大統領は脱原発はおろか「最新鋭の原発を開発し、世界に売り込む」構えだ。左派の野党側は世論に敏感に反応しており、来年春の大統領選では、この国ではこれまで考えられなかったことだが、原発政策が争点に浮上している。  6月初めのジュルナル・ディマンシュ紙の世論調査は、福島原発事故の影響がくっきり出た。フランス人は現実的だから、「すぐにもやめろ」と主張するのは6分の1以下で、「25-30年かけて」が圧倒的多数派だ。だが、事故前は国民の過半数が常に原発を支持してきたことを考えれば、変化は明白だ。6月半ばにはパリのど真ん中、市庁舎広場で数千人が反原発デモを行なった。極めて異例のことだ。

トラブル年間1000件超

 フランスで原子力産業は、関連分野を含めて40万人以上を雇用する基幹産業だ。政府は同国が開発した原発は「世界一安全」(ベッソン産業エネルギー相)と主張してきた。ところが、実態はずっとお寒い状況だ。これまで政府と同様に「原発は安全」といい続けてきた仏マスコミが実態報道を始め、年間のトラブルが1000件を超えることや、下請け工事のずさんさなど、これまで表面化しなかった問題が次々に明るみに出てきた。
 これに加え、隣国が一斉に脱原発に動く。ドイツは2022年末までの原発全廃を決め、スイスも脱原発を決めた。イタリアでは6月の国民投票で原発凍結支持が94%を占めた。ふだんなら、「フランスは違う」と傲然と構える国柄なのに、「我が国はこれでいいのか」と懐疑論が広がっているのだ。
 しかも、電力事情さえ危ういことも分かった。ドイツの脱原発決定後、「フランスは電力輸出が増えて大もうけ」という見方が出たが、ことはそう単純ではない。というのも、フランスはドイツに電力を輸出する一方、輸入もしており、しかもこれまでは一般的に、ドイツからの輸入量が輸出量を上回っている(送電機関RTEの2010年統計では輸出9.4TWh 輸入16.1TWh)。このため、ドイツの電力不足で需給バランスが崩れると、フランスの電力価格にも影響があるのでは、という懸念が出ている。電気料金値上げという形でフランス国民にしわ寄せが及ぶ可能性さえあるのだ。
 猛暑が予想される今夏、日本並みに「計画停電が必要になるかもしれない」と予測する専門家もいる。仏原子力大手アレバは、イタリアのエネル社と共同で進める同国での原発計画が白紙になるかもしれず、業績予測の下方修正が避けられなくなるとの見方が強い。

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