スピード面でも金額面でも魅力に乏しい(c)時事
スピード面でも金額面でも魅力に乏しい(c)時事

 北京と上海を結ぶ高速鉄道が6月30日に開業した。当初、2012年秋開業の計画だったが、建設工事が景気刺激策に組み込まれ、加速されて進んだため、開業時期が何回も繰り上げられ、ついに1年以上も前倒しで完成した。何事も遅れることが多い中国では珍しいケースといえる。  中国では「南北4本、東西4本」延べ1万6000キロの高速鉄道建設が計画されており、トップバッターとなった広州(広東省)と武漢(湖北省)のルートは09年に開業している。上海-杭州(浙江省)、北京-太原(山西省)なども開業し、最近では高速鉄道は珍しくなくなったが、北京-上海間の「京滬(けいこ)高速鉄道(北京の「京」と上海の古称の「滬」にちなんだ)」は別格だ。08年の北京五輪、10年の上海万博に続く、大きな節目として内外が注目した。

最も早い列車でも5時間近い乗車時間

 だが、期待とは裏腹に問題が相次ぎ噴出した。車両、軌道、運行などの安全性への疑問、鉄道相までが逮捕されるほどの汚職の広がり、車両技術の独自性、知的財産権をめぐる議論などだ。さらに国民からは運賃の高さへの批判が噴出、国内の経済格差の問題と結びついて、政府批判までもが盛り上がった。だが、まず注目すべきは鉄道事業としての経済性、京滬高速鉄道がもたらす経済浮揚効果についてだろう。
 京滬高速鉄道は全長1318キロで、24の駅が設置された。開業前に高速運転の安全性に疑念が出され、高額運賃への批判も噴出したため、予定の最高速度を350キロから300キロ以下に落として開業、運賃も予定より引き下げた。最高時速300キロ運転の高速で4時間48分、時速250キロの低速では7時間56分もかかる。1964年に開業した東海道新幹線も開業時は計画の最高時速よりも抑え、安全性を確認しながら時間をかけて最高時速を上げていった経緯があり、スピードを抑えて開業することは決して異例ではない。だが、最も早い列車でも5時間近くかかることは高速鉄道としては致命的な欠陥となる恐れがある。
 理由は航空機との競争だ。北京首都空港と上海虹橋空港との間の航空便は1時間40分程度で、空港へのアクセス時間を含めても航空機の方が1時間から1時間30分も移動時間が短くて済む。北京も上海も空港への乗り入れ鉄道が整備されており、途中の道路渋滞に巻き込まれるリスクは少ない。東京-新大阪間では新幹線の延長距離は515キロで、現在は所要時間は2時間30分。航空便との競争では市内へのアクセスも含めて新幹線にやや分があるが、大きな差ではない。500キロの距離ですら高速鉄道と航空機の競争は互角に近いことを考えれば、距離が2.5倍の京滬高速鉄道は、本来なら航空便が主導権を握り、鉄道にとっては難しい距離だ。

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