TPPと安全保障の深い連関

執筆者:山下一仁2011年7月20日

 TPP(環太平洋経済連携協定)反対論者たちは、TPPは安全保障の役には立たないと主張している。もちろん、TPPは通商協定であり、ストレートに安全保障と結びつくものではない。ただ、本当に安全保障と無関係なものなのだろうか。
 たとえば、TPP反対論者の東谷暁氏は著書『間違いだらけのTPP』の中で、TPPは日米同盟の強化につながらないし、TPPを結んでも安全保障にはならないと主張している。 
 その根拠として、「経済協定に軍事同盟のような参戦義務はない」という見出しのもと、「強力な地域経済協定に参加していても、参加国のひとつが戦争を始めても、他の参加国が参戦する義務などない」と記している(p180)。
 これは言わずもがな、当然の話である。あえてこのような主張をするまでもなく、経済協定を結んだ相手国が戦争を始めると、日本も戦争に巻き込まれると信じている国民はいないだろう。これまで、日本は、シンガポール、メキシコ、フィリピン、タイなどと自由貿易協定(FTA、日本ではEPA=経済連携協定=と呼んでいる)を結んできた。これらの国が戦争すると、日本も戦争を始めなければならないと信じている国民はいるのだろうか。「どうも日本人にはTPPのような経済協定でも、それが国家間の取り決めであれば、即、軍事的な意味があると信じ込んでしまう傾向があるような気がする」(p183)とも述べているが、そこまで日本国民は愚かではないのではないか。
 さらに東谷氏は、オリジナルの4カ国のTPPは「まったく軍事的な意味合いを想定していない」だけでなく、むしろ「この協定は……重要な安全保障上の利害を守るために、参加国が必要と思ういかなる行動を採ろうとも、それらを阻害するものと解釈されることはない」という「安全保障例外条項」すら存在すると指摘している(p185)。また、同じような安全保障例外条項はNAFTA(北米自由貿易協定)にも、WTO(世界貿易機関)のGATT(関税と貿易に関する一般協定)やGATS(サービスの貿易に関する一般協定)にも存在し、「WTOを根拠とする地域経済協定には、集団安全保障が含まれていないことを宣言していると言ってもよいだろう」(p186)と主張している。

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