衰えたりとはいえ世界第三位の規模と先進技術力を擁する日本経済が、世界のボトム・オブ・ピラミッドにいるアフリカの経済と同様に語られるはずはない---と思いたいところだが、世界広しといえども日本経済とサブサハラ・アフリカ経済にしか見られない共通した経験がある。それは、20年におよぶ成長停止である。

 サブサハラ・アフリカ経済は1981年から2002年まで、名目ドル価で測ったGDPがほとんど増えなかった。年平均成長率を計算すると1%に達していない。一方日本は1991年に始まった平成大不況がいっこうに回復せず、2011年の現在にいたるまでGDPが5兆ドル、円貨では500兆円の下辺をさまよっている。「失われた10年」といわれる長期経済低迷はあちこちで起こったが、20年にわたる成長停止はきわめて珍しい。その結果、アフリカ社会と日本社会では経済成長を知らない世代が前線を担っている。

 サブサハラ・アフリカの場合経済成長がなかった20年間で人口が倍になった。そのため1人当たりGDPがおよそ半分にまで減ってしまった。長期にわたる深刻な貧困化が起こったのである。ただでさえ貧しい地域でさらに所得が減っていくという未曽有の事態を分析するなかで、こんにちの開発経済学が形成され、発達してきた。人口が増え労働力が増えているのに生産額が減少しつづけるというのは、そう簡単には説明できない現象である。経済成長をおしとどめるなにか強力な要因が働いていなければ起こるはずがない。開発経済学にとってサブサハラ・アフリカの貧困化現象は、いうならば願ってもない「自然実験」だった。オックフォード大学のポール・コリアーは「エコノミストにとっての金鉱」と形容している。私たちの分野の研究者はこの金鉱を競って掘ってきたのであり、そうやってサブサハラ・アフリカ経済の成長を抑制している要因を探してきたのである。

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