「反腐敗」と「民族主義」

執筆者:フォーサイト編集部2011年8月5日

 経済産業省のトップ人事が動きました。「次官らを更迭」というのが表向きの売り文句ですが、後任人事はこれまでの省内ルールに則った順当なもの。要は、「政治主導」という冠を付けてあげるから、中身は自分たちで決めさせてもらいますという、役所の思い通りの人事です。その「手柄」を菅首相と海江田経産相が争っているというのですから、菅政権の愚かさには嘆息せざるをえません。この茶番人事劇に先立つ3日に起こった痛恨事は、原発事故の損害賠償スキームを決める原子力損害賠償支援機構法が成立してしまったことでした。実質的な「東電救済法」が決まったことにより、東電の株主責任、貸し手責任を問われる可能性は低くなり、5兆円とも推計されるその負担分は、電力料金か税金の形で国民に回ってきます。原発事故を招いた今の電力供給体制にメスを入れることもできませんでした。

 本日の更新記事は、田中直毅さんの「経済の頭で考えたこと(38)『反腐敗』『民族主義』という中国政治の2つの軸」です。高速鉄道事故が起こった7月23日、1人の男がカナダから中国に強制送還されました。頼昌星容疑者。1990年代後半に福建州アモイで起こった巨額脱税事件の主犯です。事件には江沢民前総書記の息がかかった「上海閥」の関与が囁かれ、次期総書記就任が確実視される習近平の名前も挙がります。頼をこの時期に強制送還させたのは、江沢民の健康悪化と関係があるのか――。戦後日本を代表する東洋史学者・宮崎市定によれば、中国の政治変動の起源は「腐敗」と「民族主義」。この2つを軸に、中国政治は大きく動くかもしれません。事件については昨年11月の記事「習近平勝利にみる『毛王朝』の血脈(下)」をご参照ください。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。