米政治の亀裂は深まっている(c)EPA=時事
米政治の亀裂は深まっている(c)EPA=時事

 去る8月2日にオバマ米大統領が債務上限の引き上げ法案に署名し、同法が成立した。デフォルト(債務不履行)という最悪の事態は辛うじて回避されたが、そこに至る道のりは米国の今後にかなりの不安を抱かせるものだった。  そもそも債務上限はこれまでほぼ自動的に引き上げられており、政争の具にはされてこなかった。いわば暗黙のルールだ。しかも、今回、歳出削減策とのパッケージで論じられたため、来年秋の大統領選挙を睨んだ力学も働き、党派対立や党内対立が熾烈さを極めた。  デフォルトが刻一刻と現実味を増すさまは、まるで大国の崩壊を描いたハリウッド映画を見ているようだった。当初は「何とかなるだろう」と楽観視していた米国人の友人や知人からのメールにも危機感や怒りが滲み出るようになった。

全員が敗者に

 法案成立の前日までに実施されたピュー・リサーチ・センターの世論調査(8月1日発表)によると、実に回答者の72%が今回の政争を“ridiculous”“disgusting”“stupid”“frustrating”といった否定的な言葉で表している。この割合は共和党支持層、民主党支持層、無党派層の間でほとんど変りがなく、皮肉な超党派的合致を見せている。
 今回、交渉の主たるアクターは、オバマ大統領(民主党)、議会民主党、ベイナー下院議長(共和党)、議会共和党、そしてティーパーティ系議員(=強固な財政保守の立場を採る共和党議員)だったが、同調査によると、すべてのアクターについて、評価が下がったとする人の割合は30-42%に達し、逆に上がったとする人の割合は11-18%に留まっている。つまり明確な「勝者」は存在せず、むしろ全員が「敗者」だったということになる。特徴的なのは、各アクターの支持者は支持するアクターへの信頼をさらに深める一方、対立するアクターに対しては不信をより強めている点で、世論の分極化に拍車がかかっている。
 昨年の中間選挙では「反ワシントン」や「反現職」の旋風が吹き荒れたが、国民の政治不信はさらに深まったようである。ニューヨークタイムズ紙とCBSニュースの共同世論調査によると、連邦議会の仕事に不満を抱く回答者の数は調査を始めた1977年以来最高の82%に達している。

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