危機から復活したカタールのLNGビジネス

執筆者:森山伸五2011年8月23日
夏場の電力需要に応えるため入港したカタールの大型LNG船(c)時事
夏場の電力需要に応えるため入港したカタールの大型LNG船(c)時事

 東京電力の福島第1原発事故は、幅広い影響を世界のビジネスに与えた。原子炉など原子力産業の先行きに暗雲が広がり、石油、天然ガス、石炭など化石燃料に追い風が吹いていることは言うまでもない。そのなかで注目すべきは天然ガスであり、世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国、カタールが危機の瀬戸際から復活したことに目をむけておくべきだろう。  3月11日以前には、カタールのLNGビジネスは手詰まりになりかねない状況だった。2010年に目標としていた年産7700万トンのLNG輸出能力を構築したものの、LNG需要は世界的に低迷、新規に立ち上がった液化プラントの長期契約がなかなか決まらない状況だったからだ。インドやバングラデシュなど買い手として不安感のある顧客にまで話を持ち込まざるを得ない状況だった。安値のスポット輸出で何とか稼働率を高めようとしたものの、かえってLNGの長期契約への信頼性を損ないかねなかった。

米中向けに乱立したLNGプロジェクト

 原因は単純だ。過去5年間に世界的に新規のLNGプロジェクトが続々立ち上がり、ライバルが格段に増えたからだ。イエメン、エジプト、ナイジェリア、赤道ギニア、サハリン(ロシア)など新顔に加え、豪州はじめ既設プロジェクトの増強も続いた。今やLNGプロジェクトは一定規模の天然ガス埋蔵量さえあれば、どこの国、地域でもできるビジネスになった。こうしたLNGラッシュの背景には天然ガス需要が急増するとの読みがあった。とりわけ需要面で期待を集めたのは米国と中国だ。
 米国は世界最大の天然ガス消費国で、従来は国内ガス田とパイプラインによるカナダからの輸入を中心にし、不足分をLNG輸入で賄っていた。だが、国内の既開発ガス田は老朽化し、2000年以降、生産減退が目につき始めていた。03年には天然ガス生産でトップの座をロシアに明け渡した。05年ころには誰もが、米国がLNG輸入を拡大すると考え、一部には「米国が日本を抜いて、世界最大のLNG輸入国になる」と予測する専門家も少なくなかった。

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