『困ってるひと』
大野更紗著
ポプラ社
『困ってるひと』 大野更紗著 ポプラ社

 ビルマ(ミャンマー)難民を救済する活動に奔走していた20代の女子大学院生が、ある日、病魔に襲われる。  高熱が続き、全身の腫れと関節の痛みで歩行すら困難になるが、原因はもちろん、病名や治療法も不明。ようやくたどり着いた大学病院で「筋膜炎脂肪織炎症候群」「皮膚筋炎」という自己免疫疾患の難病であることは判明するものの、ステロイドの副作用で一時は危篤状態に陥り、思うように治療も進まない。挫折を繰り返しながらも病気と付き合うコツを学び、病院のそばに部屋を借りて自立生活を始めるまで、およそ1年9カ月の体験をリアルに綴る。難民という「困ってるひと」を救うつもりが、いつの間にか生存ぎりぎりの「困ってるひと」になっていたというお話だ。

明るい語り口から伝わってくる深刻な状況

 闘病記によくあるウエットな悲壮感はなく、とことん明るい語り口に笑い転げることもあるが、難病患者の置かれた深刻な状況は切々と伝わってくる。病気による身体的な負担だけでなく、麻酔なしでの筋肉摘出といった検査の痛みも我慢することしかできない。その上、治療法が確立していないだけに、その苦痛がいつ終わるか分からない恐怖にも耐えなければならず、精神的にも追い込まれていく。
 そこに、わが国の医療制度が抱える理不尽なシステムが追い打ちを掛ける。症状の改善が見られなくても、入院日数が180日に達した患者は退院を余儀なくされる。幸いにも著者が治療を受ける病院は良心的で、一定期間後に再入院させて治療を続けてくれるが、それができない病院もたくさんあるのが実態で、本人はそう思わないかも知れないが、著者は難病患者としては運に恵まれている。
 医療費抑制のため、厚生労働省はコストの掛かる入院医療を縮小しようと長年にわたって工夫(?)を重ねてきた。手の掛からない軽症患者を長期入院させ、医療保険から不当に診療報酬を受け取る病院があったのも事実だが、「罰則」として一定期間を超えた入院患者の診療報酬が一律に大幅減額されるようになった。著者は当初、なぜ自分が退院を迫られるのかが分からず当惑するが、そのまま入院していると、病院側が治療に必要な費用を賄えなくなると知ってがく然とする。世界に冠たる「国民皆保険」が実はほころびだらけであることは、そのしわ寄せを受ける弱者にならないと分からない。

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