カレーを食べてシンガポール人になろう

執筆者:野嶋剛2011年8月26日

シンガポールのニュースで面白い話をみつけた。

「カレーを作って食べよう」という運動が起きているという。

きっかけは、シンガポールのほとんどの人が暮らす団地で起きた。ここに中国系の移民が入居してきたところ、インド系の住民の作るカレーのにおいがたまらないということで、近隣住民を巻き込んだトラブルに発展したという。コミュニティー組織に訴えた中国系移民に対し、インド系住民は我々の食文化だと反論。結局、インド系住民は料理の最中は窓を閉じるとか、中国系移民がいるときはカレーをなるべく作らないといった妥協案が採用されたという。

しかし、この件がネットで流されると、単なる世間話では済まなくなるのがシンガポールらしいところである。異文化の受容という問題には、シンガポールの特殊な成り立ちと民族問題が絡んでくるからだ。

シンガポールは、華人が中心になって、マレー人が主流だったマレーシアから独立した国だ。人口構成は、華人7、マレー2、インド1。しかし、周辺にはインドネシア、マレーシアのマレー系大国が控え、インドの影響力も無視できない。少数派のマレー系、インド系に、むやみに華人中心主義を感じさせてはならない、ということが、社会的な行動規範になっているのである。

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