野田佳彦財務相が8月29日の民主党代表選で新代表に選出され、翌30日の国会での首相指名選挙で第95代首相に指名された。
 今回の民主党代表選はすでに報じられているように、党内が小沢一郎元代表を支持するグループと小沢氏に反発するグループに二分され、熾烈な駆け引きを演じた。かつての自民党総裁選のように現ナマ(現金)が飛び交うほどではなかったにせよ、相当に陰湿な戦いが繰り広げられた。たとえば投票日8月29日の朝にはこんな出来事があった。
 菅直人首相支持の民主党議員グループ「国のかたち研究会」の集会が開かれる予定だった衆院議員会館の会議室に、開催時刻の午前8時半前に所属議員らが続々と集まってくると、部屋の前に一枚の貼り紙が……。
『本日の会議はキャピトルホテル東急に変更になりました』
 同グループの関係者によれば、会場変更の予定はなく、貼り紙の内容は事実無根。つまり、何者かが菅グループの集会を混乱させる目的で、わざと偽情報を貼り付けたのではないかという。

「偽情報」の犯人は?

 菅首相ら民主党執行部を支持する主流派は小沢氏らの非主流派グループとは対立関係にある。今回の代表選でも菅首相グループは、小沢氏が推す海江田万里経済産業相の当選を阻止すべく、非小沢系候補である前原誠司前外相か野田氏を推すことで固まっていた。だとすると、菅グループを混乱させて得をするのは小沢グループだということになる。では、貼り紙の犯人は小沢グループか?
 ところが、貼り付けられた紙は、「平野貞夫元参院議員が使用している紙の裏を使ったもの」という情報が出回った。平野氏は現在、議員を引退しているものの、小沢氏の側近中の側近として知られる人物である。
 では、紙は平野氏が作ったものなのか。菅グループ議員の一人は「もし小沢氏や平野氏に近いあたりが貼り紙を作った犯人だとしたら、あからさまに平野氏が書いたと思われるような証拠を残すはずがない」と冷静に分析。小沢グループによる犯行だというふうに思わせて得をする人物は誰かと考えた。菅グループが小沢グループへの嫌悪感を募らせれば、菅グループの票は前原、野田両氏に流れることがより確実になる。前原、野田両氏の陰謀なのか。
 菅グループの重鎮である江田五月法相は「手が込んでいるな。よその陣営が平野さんのペーパーの裏を使って作っているのかもしれない。しかし、その裏の裏をかいて(やはり平野さんが貼り紙を作って)ということもあるかもしれないし」とあれこれ思いを巡らせてみたが、結局犯人は分からずじまい。江田氏は記者団に向かって「いやあ、なかなか楽しい選挙だね」と苦笑いした。
 一方、野田氏支持議員が小沢グループの議員に呼び出されて、ホテルを訪ねてみると、そこにはマスコミのテレビカメラが待ち構えていて……という出来事もあった。野田氏サイドの推測によると、野田氏支持議員が小沢氏の推す海江田氏支持に寝返ったと見せかける情報戦略だという。だが、小沢グループ議員は、「マスコミが勝手に嗅ぎつけた」と説明する。メディアをも巻き込んだどろどろした情報戦が展開されたのである。

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