野田総理が総理就任後、1000円カット店で散髪したことが話題になっている。
1000円カット店とは、短時間にカットだけ専門に行い、その代わり料金は安いという業態だ。洗髪などのサービスは行わないので、洗髪設備はなく、小型掃除機のような吸引器で刈り毛を吸い取る。
こうした店舗を愛用する、ドジョウ総理らしい庶民派ぶりは、なかなかの好印象だ。
 
だが、野田総理のおひざ元の千葉県で、今年7月から、こうした洗髪設備のない理容所が禁止されたことを、総理は知っているのだろうか。
・「流水式の洗髪設備の設置義務付け」が内容。
・ただし、既に存在する店舗は、増改築などがない限り、経過措置として容認。また、洗髪設備を1台設ければ構わない(1000円カットという業態を全面禁止ということではない)。
 
条例制定前の報道(2010年3月8日千葉日報)をみると、もともと、県理容生活衛生同業組合が、「吸引器による処理では刈り毛を完全に除去できず、客が散髪後に立ち寄ったレストランや病院で刈り毛が飛散したり、テーブルに落下する恐れがある。不衛生で感染の原因になることが危ぐされる」といった理由から、「洗髪設備の設置義務付け」を求めて請願を実施。
これを受け、昨年12月に県議会で条例が可決され、「洗髪設備のない理容所は禁止」となった。
 
千葉県だけでなく、全国各地でここ数年、類似の条例が制定されつつある。
常識的に考えれば、
・1000円カット店での刈り毛の処理がそんなに「不衛生」とは思えないし(1000円カット店での散髪後にそのまま党会合に向かった野田総理も、おそらく同意見と思う)、
・洗髪してほしい人は洗髪設備のある理容所に行けばよいだけで、「洗髪設備のない理容所を禁止」する必要は考えづらい。
これは、要するに、1000円カットという新業態を、既存業態の業者らが邪魔しにかかった、と捉えるのが妥当だろう(詳しくは、拙著『「規制」を変えれば電気も足りる』を参照いただきたい)。
 
たしかに、1000円カット店が進出すれば、既存の理容店の経営が脅かされることは分かる。地域コミュニティの核として昔ながらの理容店を守りたい、といった立場も分からないではない。
だが、そのために、新たな工夫をして成長してきた新業態を「不衛生」と指弾し、政治家や役所に頼んで邪魔するというのは、どうなのか。
こうやって、新たな工夫やベンチャー精神を、既得権益が公然とおしつぶすような環境では、経済成長など望めない。
 
野田総理は、野党時代には、規制改革にも強い関心を示していた。
1000円カット規制は一例に過ぎないが、こうした「既得権益を守る規制」のしがらみにどう立ち向かうのか、注目して見ていきたい。
 
(原 英史)

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