前政権勢力の武装組織タリバンの跳梁跋扈がおさまらないアフガニスタンで、インド企業の投資が活発化する兆しが見え始めた。印製鉄公社(SAIL)主導の企業連合はこのほど、アフガン中部バーミヤン州にあるハジガク鉱山(鉄鋼石の推定埋蔵量約20億トン)の採掘権を巡る入札に参加。米、イラン、カナダなどの企業連合と争う。落札者は10月末にも発表されるが、下馬評ではインド有利がささやかれている。

 こうしたインドの動きは、トルクメニスタンからアフガンを経由してインドに至るガスパイプライン建設や、同様にアフガンの天然資源に関心を示す中国などの動向を念頭に置いているものとみられ、今後もインド企業が他の資源開発プロジェクトにも相次ぎ名乗りを挙げそうだ。
 インドは2009年にアフガンに対し小麦250万トンの無償緊急支援を表明。教育・医療支援や発電所などのインフラ整備、アフガンとイランを結ぶ幹線道路の建設、さらには新国会議事堂の寄贈などで、これまでに世界第6位・総額約20億ドルの支援を表明(一部は実施済み)している。今年5月にも、インドのシン首相が6年ぶりにアフガンを訪問。農業や人的資源開発への追加支援を表明したばかり。
 インドがアフガン接近を急ぐ背景には、トルクメニスタンのガス田で生産される天然ガスをアフガン、パキスタン経由でインドに送る通称TAPIパイプラインの建設で昨年沿線各国が合意。今秋にはロシアもプロジェクトへの参加を表明し、計画の実現性が一気に高まってきたことが挙げられる。また、友好国パキスタンとともにアフガンの天然資源に関心を示し、同国への接近を図る中国に対抗する思惑も指摘されている。そして、米国主導でアフガンに駐留する国際治安支援部隊(ISAF)が完全撤退する2014年を控え、資源開発関連事業を一刻も早く具体化させておこうという思惑もありそうだ。
 さらに言えば、新たにSAARC(南アジア地域協力連合)のメンバーとなったアフガンに対し、SAARCの盟主としてしかるべき支援を行うという高邁な精神もあるのかもしれない。
 もちろんインドにとってはリスクもある。タリバンなど反政府勢力にとってインドは強力なカルザイ政権支援者とみなされており、インドの在外公館やインド人の生命・財産はしばしばテロの標的となってきた。カブールのインド大使館は過去2度にわたってテロ攻撃を受け、75人が死亡、数百人が負傷するという犠牲を払った。
 独裁政権下でも石油省などのテクノクラートが温存され、新政権移行後の原油生産回復が比較的うまくいったイラクと比べ、これまでまっとうな資源開発プロジェクトがなく現地政府も実務に慣れていないアフガニスタンでは手続きの遅延や混乱も予想されるが、一連の資源開発が同国や周辺地域の安定化に寄与することを期待したいと思う。(山田 剛)
 

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