TPPで日本が韓国に抜かれる日

執筆者:加瀬友一2011年9月26日
韓国の後塵を拝する可能性も(c)AFP=時事
韓国の後塵を拝する可能性も(c)AFP=時事

 米国オバマ政権と韓国の李明博(イ・ミョンバク)政権の通商当局が、あるシナリオをめぐり水面下で対話を続けている。両者が念頭に置くのは、11月半ばにハワイ・ホノルルで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)。両国の調整が順調に進み、条件が整えば、11月までに世界を驚かせる合意が発表されるかもしれない……。  そのシナリオとは、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への韓国の電撃的な参加である。これが現実化すれば、TPP交渉参加の意思決定が遅れる日本の野田政権を尻目に、韓国が先に交渉に参加することになる。  日本は既に米国との自由貿易協定(FTA)交渉で、韓国に大きく後れをとっている。それだけでなく、広くアジア太平洋地域をカバーするTPPでも、韓国の後塵を拝する立場に陥りかねない。世界での日本の存在感の低下は免れない。

同時に動き出した米韓

「9月に入り、米韓両国の政権がそれぞれ国内で議会対策を活発化させている。米韓FTAが表向きのテーマだが、その裏側には韓国のTPP参加計画が隠されている」――。米国の通商政策に精通するワシントンの通商弁護士が、こんな見通しを語る。こうした水面下の米韓の動きに気づく者は少ない。
 互いに貿易関税を撤廃する米韓FTAは、両国の政府間で合意しているが、まだそれぞれの議会では批准されていない。だが、ワシントンとソウルの政界が同期するように、貿易問題をめぐる動きが、ここに来て急速に高まっているのは事実だ。
 米議会下院は9月7日に批准に向けた議会内の手続きを開始。上院でも民主党のハリー・リード院内総務が、早期批准を目指した調整を加速する考えを明確にした。財政問題や雇用創出など他の政策課題が山積するにもかかわらず、通商問題での議会内の動きは素早い。
 韓国の国会でも、9月16日に外交通商統一委員会で、ハンナラ党の南景弼(ナム・ギョンピル)委員長が米韓FTAの批准案を上程した。委員長の裁量権を使い、反対論を押し切った形での強硬措置である。これにより韓国内での批准も、時間の問題となったとみられている。
 両国の議会での批准を経て米韓FTAが発効すれば、韓国がTPPに参加する道が一気に開けるだろう。なぜならば、FTAもTPPも、協定の中心は「相互に関税を撤廃する」という約束である点に変わりはなく、協定を結ぶのが2国間であるか、複数の加盟国であるかの違いしかないからだ。

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