演劇『今日を追憶せん』キャンペーンの真意

執筆者:平井久志2011年10月11日

 日本ではまったく報道されていないが、北朝鮮で今、「今日を追憶せん」という演劇が大きな話題になっている。北朝鮮では1年に1作程度、注目すべき演劇が発表され、それが住民の思想教育に活用される。昨年は軽喜劇「山びこ」が話題になった。しかし、今年の「今日を追憶せん」へのキャンペーンは、昨年の「山びこ」をはるかに凌ぐものであり、それが何を意味するのか注目したい。

 朝鮮中央通信は7月13日に、金正日(キム・ジョンイル)総書記が国立演劇劇場で上演された国立演劇団の新作「今日を追憶せん」を金正恩(キム・ジョンウン)党中央軍事委副委員長や張成沢(チャン・ソンテク)国防委副委員長など幹部多数を随行して鑑賞したと報じた。

 7月16日には「今日を追憶せん」に北朝鮮最高の栄誉である金日成賞が贈られた。

 平壌の国立演劇劇場では7月17日から公演が始まり、連日盛況を呈し、同27日には朝鮮中央テレビで全編が放映された。現在は地方公演が続いている。

 演劇は多数の餓死者が出るなどした1990年代の「苦難の行軍」の時期を描く。舞台は当時の山間部の地方の「郡」。郡ではエネルギー難を解消するために中小発電所の建設に乗り出すが、食糧も資材もなく多くの困難に直面する。主人公の女性、カン・サンオクは郡行政経済委員会の委員長で、さまざまな困難を乗り越えて発電所建設に献身するが、郡の幹部の中には困難な発電所建設よりも、温泉を活用して観光開発を主張するものもいる。カン・サンオクは、食糧も与えることもできず最愛の娘ソンヒを亡くす。また、カン・サンオクには朝鮮戦争当時に生き別れになった弟がいてずっと探している。

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