電力会社の呆れた体質がまた明らかになった。玄海原子力発電所(佐賀県玄海町)2、3号機の再稼働を巡る「やらせメール」問題でいまだに立ち往生している九州電力。真相究明のために自ら立ち上げた第三者委員会の調査結果を無視しただけでなく、1度は引責辞任を国会で表明した社長がその後辞意を撤回。所管大臣と対立し、地元住民やメディアの批判が渦巻いている。原発再稼働のメドは立たず、代替燃料費の急増で赤字が日に日に膨らむ。社内の動揺は広がり、取引金融機関も距離を置き始めた。混乱の中心にいるのは地元財界トップの座にあるワンマン会長と“股肱之臣”である社長。保身とメンツにこだわる彼らの頑な姿勢が会社を空中分解の瀬戸際に追い込んでいる。

「良識」「徳」がないのは誰なのか

7月27日、記者会見でトップの辞任問題について記者の質問に答える九州電力の眞部社長(右)と松尾会長 (C)時事
7月27日、記者会見でトップの辞任問題について記者の質問に答える九州電力の眞部社長(右)と松尾会長 (C)時事

「日本人が忘れかけている良識を、力を合わせて取り戻そう」  10月16日、福岡市中央区のホテルニューオータニ博多で開かれた「日本会議福岡」。壇上に立った九電会長、松尾新吾(73)は1000人を超える参加者にこう呼びかけた。 「日本の伝統や文化を守り誇りある国づくりを進める」(10月17日付産経新聞)という同会議には、元首相の麻生太郎(71)や作家の曽野綾子(80)らも出席。面子から想像がつくように保守的な色彩が濃い会合である。この日は5月に「日本会議福岡」の会長に就任した松尾のために開催された就任記念大会。味方に囲まれた心境だったのか、この後も「日本では戦後、経済大国に成長する過程で従来備わっていた『徳』が疎かにされてきた」と訴えるなどスピーチのボルテージは上がる一方だった。  ところが、地元財界やマスコミ関係者の多くは、松尾の口から出てくる「良識」や「徳」といった文言を苦々しい思いで聞いていた。  この2日前、松尾が君臨する九電は、「やらせ問題」についての最終報告書を経済産業省に提出したのだが、その際、元特捜検事で現在は弁護士の郷原信郎(56)が委員長を務める第三者委員会の調査結果の核心部分を無視。郷原は「都合の良いところだけをつまみ食いした」と猛反発、経産相の枝野幸男(47)も訪問先の中国広州市で記者団に囲まれた際「どういう神経なのか、私には理解不能」と厳しく九電を批判した。

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