親より貧しい世代

執筆者:徳岡孝夫2011年12月13日

 暮から正月にかけ誰しもカネの出入りが増える季節に、また振り込め詐欺が増勢に転じているという。  最近のは手が込んでいて、先に電話して風邪を引いて声が変わったと親に知らせる。次に会社のカネを使い込んだと訴える。×日までに弁償しないと警察沙汰にされる。  何月何日何時に貰いに帰るからカネの用意をしておいてくれと頼むので、親は現金を封筒に入れ、用意して待っている。定刻、息子とは違う若い男が現われる。「ウチの子は?」「いま金策で走り回っているんです。おカネは、ぼくが取りあえず預かっておきます」。若い男は封筒を持って去り、振り込め詐欺は完了する。  警察はCMを流して詐欺の手口を具体的に演じてみせ、引っかからないよう警報を発しているが、減る気配はあまりない。  事件はニュースになって報じられる。ほとんどの老人は「ほほう、うまいことやるなあ」「ウチも気をつけようね」と反応して終わる。私はそれより1つ多い感慨があるが、滅多にそれを口に出さない。  それを言うのは、詐欺に引っかかって虎の子を持っていかれた方に気の毒である。だからここでも遠慮しながら触れるだけに止めたい。私が振り込め詐欺のニュースを聞いてひそかに感じるのは「年寄りは持ってるなあ」という感慨である。

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