金正日の死は体制崩壊の序曲

執筆者:2011年12月26日

<神話なき権力移譲>

 金正日の突然の死去により、金正恩を「強盛大国を達成した英雄」に仕立てた上で権力を移譲するという世襲の正統性を描いたシナリオが狂った。

 14世紀に軍事クーデターで高麗を倒して李朝を開いた李成桂は、白頭山の神のお告げで産まれた。金正日も、革命の聖地白頭山で産まれたという。だが、正恩にはそんな神話はない。国を強く豊かにしたという新たな神話が必要だったが、それができなかった。そこに、新政権の最大の弱点がある。

<正恩の選択肢>

 金正日死亡公表の後、米・韓軍は、防衛態勢(デフコンDefense Readiness Condition)の段階を上げていない。これは、北朝鮮側に大きな部隊移動などの兆候がないからだが、同時に、軍事的緊張を高めない配慮でもある。中国も「北を見捨てない」メッセージを送っている。いずれの国も、北朝鮮の「暴発」を望んでいない。軍・党・国家の最高指揮官を失った平壌政権も、権力の再構築と国内治安維持に追われ、軍事挑発をしている余裕はない。

 平壌は、服喪を理由に権力内の不満分子を押さえこみ、体制の確立を図るだろう。他方、前年の収穫を食べつくす初夏の端境期には、兵隊を含め国民の飢餓が頂点に達する。正恩には、どんな選択肢があるのだろうか。

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