「ドラクマ復活」とユーロの安定

執筆者:田中直毅2012年1月10日

 2012年の年明けの欧州金融情勢は、昨年11月ころと比較すれば平静であったといえる。最大の要因は旧臘ECB(欧州中銀)がユーロ加盟国の銀行に対して、上限なしの3年間の資金融資を決めたからだ。長期にわたる低利融資の稼動はLTROs(long-term refinancing operations)と呼ばれ、このLTROsのもとでは、それ以前には銀行がまったくといってよいほど応ずることのできなかった国債の借り換えにもそれなりに対応できることになる。このためイタリアの10年もの国債の利回りも、年明けは6.9%を下回ることになった。1月中旬に予定されるイタリア国債の多額の借り換えも、とりあえずは大きな破綻はないだろう。

2月に再び訪れる債務危機

 1月には、出だしのひとまずの順調を予想させる、もうひとつの要因もある。ECBのLTROsによってとりあえずのところ安堵した投資家に対して、ユーロ圏の国債の元本償還と利払いが確実になされることだ。1月中の元本償還は556億ユーロになるし、クーポンとして受け取る国債の利息分は273億ユーロに及ぶ。これに対してユーロ圏各国の借り換え国債の当月の発行額は計840億ユーロにとどまる。投資家にとっては行ってこいの相殺分を控除すると、11億ユーロの純投資が求められているということになる。この程度ならば1月は問題はないので、2月以降の見定め次第ということになろう。だが同じ計算を2月について行なうと、話は違ってくる。240億ユーロを上回る純投資を市場に対して要求することになるからだ。
 要するに、主権国家の債務危機からの脱却は、ECBのLTROsだけでは決して十分でないのだ。綱渡りの連続のなかで、もしEU(欧州連合)の景気の下降が避けられないということになれば、想定した税収も確保できないという事態に追い込まれる。こうした金融市場にとってのリスクの再燃という事態に対する万全な備えなどはない。しかしユーロ加盟国はここで思考停止に陥るわけにはゆかない。浮上するのが、そもそものギリシャ問題である。なぜギリシャ危機の段階で事態の封じ込めができなかったのか、という問いかけは、EC(欧州委員会)の内部でも依然として続いている。そして解決策のひとつがギリシャのユーロ圏からの明瞭な切り離しである。ヨーロッパにとってギリシャは「祖父」の地位にある。哲学のもとは古代アテネでの問答集に遡るからだ。しかし、ギリシャに対しては新たな政策手段を賦与する以外にないとの声は、EC内で高まっている。ドラクマの復活案だ。

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