昨年11月、民主党の渡部恒三最高顧問や自民党の加藤紘一元幹事長らが中心になって、衆議院選挙における中選挙区制復活を目指し「衆議院選挙制度の抜本改革をめざす議員連盟」を発足させた。報道によると、加藤氏らは小選挙区制導入後に「本物の政治家が育ってこなかった」ことに危惧を抱いているという(MSN産経ニュース2011年11月13日付)。
 政治家が「本物」であるかどうか、あるいは「良質」であるかどうかを直接測ることはできない。だが、現在の政治学では、ある選挙制度の下で政治家がどのような行動を取る可能性が高いかは分かっているので、中選挙区制における「本物の政治家」として何がイメージされているのかを推測し、その当否を論じることはできる。そこで以下では、政治家の行動と選挙制度の関係について考えてみることにしよう。

中選挙区制における議員行動

 中選挙区制とは1つの選挙区から2~6人の当選者を出す選挙制度であり、日本では通常、有権者は1人の候補者にのみ投票するという方式(単記制)と組み合わされる。当然ながら、当選ラインを大きく超える候補や下回る候補も出てくるが、これらの候補者に投じられた票が当落線上の別候補に回されることもない(非移譲制)。
 この制度の最大の特徴は、当選ラインが低くなることである。たとえば、定数4の選挙区であれば投票総数のおおむね20%の得票を確保できれば当選できる。これは、投票総数の約50%の得票が必要となる小選挙区制とは大きく異なる。実際の選挙では投票率が60%台であることが多いから、有権者数に対する当選ラインはさらに低下する。
 当選ラインが低いことにより、中選挙区制にはいくつかの特徴が生まれる。1つには、小政党が生き残りやすい。有権者の中で比較的マイナーな理念や政策を追求する政党にとって、50%の得票は難しいが20%なら確保できる、ということは少なくない。結果として、議席を確保する政党の数が比較的多い議会構成となる。
 もう1つには、選挙結果が安定することである。中選挙区制では、大政党から小政党まで、有権者の政党支持率に近似した議席を確保することになる。政党支持率の変動はそれほど急激には生じないので、政党間の勢力もあまり変化しない。
 かつて自民党が長期政権を維持し、野党が分裂していたのは、これらの特徴によるものであった。それと同時に、中選挙区制時代には選挙区の総数は衆議院の過半数を大きく下回っていたので、自民党は単独政権を維持するために単一選挙区から複数の候補者を当選させる必要に迫られた。そのためには、「自民党候補者に入れたい」と有権者に思われるだけでは不十分で、「自民党候補者の○○さん」に入れたいと思わせねばならない。派閥や族議員は、政治資金や利益配分を通じて、自民党候補者間での差異化に貢献していた。
 政党間の勢力比は大きく変わらないが、自党の他候補との差異化が必要となる中選挙区制の下では、個々の議員が個人プレーに走りがちになる。自民党が「自分党」と揶揄され、自らの「信念」に従って党の方針と明らかに異なる公約を掲げる候補者が続出したのは、その意味では当然だったのである。しかし彼らは、国会では自民党議員としてまとまって行動しており、造反は稀な出来事であった。

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