「日本だけは別」の時代が終わるとき

執筆者:青柳尚志2012年1月27日
他人事ではない(ギリシャのデモ)(c)EPA=時事
他人事ではない(ギリシャのデモ)(c)EPA=時事

 バブル崩壊後の日本は株式や不動産価格の長期停滞が続き、デフレに悩まされてきた。その間に財政赤字は膨らみ、政府債務残高は国内総生産(GDP)の2倍を超えた。にもかかわらず、経済が何とか回っていたのは経常収支が黒字で、借金を国内の資金で埋め合わせることが出来たからだ。今、その前提条件が大きく変わりつつある。  日本経済を取り巻く状況は、昨年3月の東日本大震災を機に様変わりしつつある。1月24日から始まった通常国会では、消費税引き上げ法案が最大の焦点だ。こうした経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を踏まえた論戦が戦わされるのが望ましいが、実際には衆院の解散・総選挙をにらんだ政局的な思惑が先行するだろう。  バブルが崩壊してから20年ぶり、あるいは1ドル=360円の固定相場制の終焉を告げたニクソン・ショックから40年ぶりというべき大変動の予兆があるのに、当の日本で余り注目されないのは何故か。ほかでもない。昨年来の欧州政府債務危機が余りに騒がしく、世間の関心を集めているからである。

ユーロをめぐる騒動はひとまず収束か

 ギリシャは単一通貨ユーロから離脱するか。危機はイタリアに飛び火するか。救済役だったはずのフランスは大丈夫なのか。ドイツが一肌脱げばよいものを、何故こうまで高飛車なのか。欧州の銀行は経営破綻に追い込まれ、預金封鎖が引き起こされないのか。そして、ユーロが解体し、欧州はバラバラになるのではないか。
 様々な国が登場し、通貨の命運が左右されるストーリーには、誰しも興味を抱く。そして、当たり外れは別として、一家言持っているような気分になれる。それもこれも、欧州は他人の出来事だと考えているからだろう。だが、ユーロ解体を今日明日の出来事として期待する向きには残念だろうが、欧州の大騒動はひとまず収まる可能性の方が大きい。
 昨年12月21日に欧州中央銀行(ECB)が実施した金額青天井のオペ(資金供給)が、欧州銀の資金繰り対策として一定の効果を上げ始めたからだ。このオペは期間3年の長期資金を、年1%の低利で貸し出したものだ。総勢523の金融機関が応募し、資金供給額は4891億ユーロ、日本円に換算して約50兆円にのぼった。50兆円という金額は日本の政府予算の半分以上の規模である。
 あるいは、金融市場が驚いた2010年11月のバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長による金融の量的緩和第2弾(QE2)の6000億ドル(円換算で約46兆円)に匹敵するといった方が、分かりやすいだろうか。ともあれ、ユーロの年越し資金さえ調達できず、アップアップしていた欧州銀にとっては、50兆円規模の大量の資金供給が干天の慈雨となった。
 金融機関の破綻の引き金を最後に引くのは、資金繰りの行き詰まりである。そのリスクが封印されたことで、金融市場はある程度落ち着きを取り戻した。売られすぎの反動といってしまえばそれまでだが、欧州株も持ち直している。米国や日本の株式が年明け以降、底堅く推移しているのも、欧州のメルトダウン(溶融)がひとまず回避されたとの空気が広がっているからだろう。

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