独大統領辞任の陰にタトゥーあり

執筆者:佐藤伸行2012年2月20日

 ドイツのクリスチャン・ウルフ大統領(52)が2月17日、ニーダーザクセン州首相時代に地元財界と癒着していた疑惑にまみれ、とうとう辞任を発表した。就任後、1年8カ月にしての辞任であり、在任期間は戦後の歴代大統領中、最短命となった。

 ドイツの大統領といえば、「過去の克服」を説いたワイツゼッカー元大統領に典型的に見られるように、ナチス犯罪の重い十字架を背負った戦後ドイツの良心を体現する精神的・道徳的指導者と位置づけられてきた。しかし、ウルフ氏の不祥事は、あまりに吝嗇に過ぎ、聞く者を赤面せしめるような内容だった。金銭絡みのスキャンダルによって任期途中で辞任を余儀なくされたドイツの大統領は戦後、初めてであり、2010年の選挙でウルフ氏を擁立したメルケル首相の責任も厳しく追及される事態になっている。

 ウルフ氏は、州首相時代に知人の実業家から市中のローンよりもはるかに安い金利で50万ユーロの融資を受けていたほか、ウルフ氏の旅行代金が実業家から支払われていたとする疑惑なども続々発覚した。捜査を進めていた検察当局が、容疑を裏付ける証拠を突き止めたとして不逮捕特権停止を議会に要請したことを受けて、ウルフ氏が辞任を表明したというのが事の顛末である。

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