金融の追加緩和に動いた白川日銀総裁(c)時事
金融の追加緩和に動いた白川日銀総裁(c)時事

 総悲観のなかで、市場の空気は変わってきたということなのだろうか。日銀が2月14日に物価目標を打ち出したのを機に、円高修正の動きが起き、株式相場は勢いよく上昇しだした。悲観が強かった分、楽観に浸りたい気分は分かる。死角は債券市場と長期金利にある。  日銀が14日に決めたのは2つ。消費者物価指数で1%の上昇を、物価安定の「めど」として打ち出したこと。そして、長期国債の購入額をさらに10兆円増やす、金融の追加緩和に踏み切ったことである。日銀は動かないだろうと高をくくっていた市場参加者は、ポジティブ・サプライズ(嬉しい驚き)に見舞われた。  日銀事務方の中心にいる山口廣秀副総裁と雨宮正佳理事が知恵を出して、金融緩和を演出して見せたのは、訳がある。1月25日にバーナンキ議長の率いる米連邦準備制度理事会(FRB)が、2%という物価目標を打ち出し、ゼロ金利政策を継続する時間軸を2013年半ばから14年後半まで延ばしたからだ。

日銀が金融緩和に動いた理由

「日銀は指をくわえて動かないのか」といった批判が日本の国会で沸騰し、日銀としても「ゼロ回答」という訳にはいかなくなった。国会議員たちが参考人である白川方明日銀総裁に浴びせる質問には、品のないものが多かったとはいえ、デフレが長引く現状は日銀にとって分が悪い。
 折しもパナソニックの7800億円の赤字予想を筆頭に、日本を代表する電機メーカーの決算は総崩れになっていた。1ドル=70円台後半の円高が長期化し、企業は生産・販売拠点を相次いで国外に移している。雇用の減少は国内の消費を冷え込ませ、経済をますます縮小させてしまう。
 何か手を打たなければならないのに、政府は有効な策を打ち出せていない。そんななかで、3月の決算期末はひたひたと迫っていた。円高・株安の悪循環が続き、日経平均株価が8000円を下回るような事態になったら、金融機関の保有する株式に大量の評価損が生じていたことだろう。
 円高・株安は日本経済のアキレス腱である。そのリスクを承知するからこそ、日銀は3月の政策決定会合を待たずに、物価目標の設定と追加緩和に動いたのである。敢えてもう1つ理由を追加すれば、13年4月に任期満了を迎える白川総裁の後任人事問題が、意識されたことだろう。
 金融政策の運営がいつも後手後手との批判を浴び、政治から日銀法の改正をチラつかされる現状では、後任人事に際して日銀事務方の意見が反映されるべくもない。ある程度、政治の信認を回復しておかないと、将来身動きが取れない。そんな思惑も感じられないではない。

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