大いなる少数派「ロシア系」に悩むラトヴィア

執筆者:国末憲人2012年2月24日

 バルト3国ラトヴィアの首都リガは「バルト海の真珠」と呼ばれ、欧州の首都の中でもプラハと並んで最も美しい街の一つといわれている。世界遺産に登録された旧市街にはいくつもの塔が立ち並び、中世の建築物が残る。街の中はこぎれいで、北欧に近いと実感できる。


 しかし、少し町外れに行くと、無機質で画一的な中層アパートが並ぶ地域がある。おんぼろの路面電車がごとごと走る。治安状況もあまり芳しくない。ソ連時代につくられた街並みだ。


 1940年にラトヴィアを併合したソ連の遺産は、こうした地区の風景ばかりではない。何より、大量のロシア人が移住した。工業化が進み、海があって自然が豊かなこの国は、ソ連時代の支配階級ロシア人にとってあこがれの保養先だったからだ。しかし、91年の独立によって、彼らはラトヴィアに取り残された。現在約220万人の国民の中で、ロシア系は約3割、リガでは70万人の人口のほぼ半数に達する。


 「ロシア系とは全然出会わないですね。彼らが行くレストランも映画館も、ラトヴィア系とは全く別です。違う世界に暮らしているみたい」。2010年にリガを訪れた際、案内してくれたラトヴィア系の政府関係者がこう話していたのを思い出す。ラトヴィア系とロシア系の間に交流はほとんどない。国内に二つの国があるかのようだという。

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