ソ連が20年前に崩壊し、中国もすっかり資本主義化した今、共産主義を信じる人々がいまだに息づいているのは、世界でも北朝鮮とフランスだけでないだろうか。


 フランスでは、大統領選のたびに「プロレタリアート独裁」だの「権力を人民の手に」だののスローガンを叫ぶ候補が登場し、結構な支持を集めている。2002年大統領選ではトロツキスト政党「労働者の闘い」の候補ラギエが躍進し、2007年大統領選でもやはりトロツキスト政党でその名も「革命的共産主義同盟」のブザンスノが旋風といってもいいほどの人気を博した。それがフランスの奥深さなのか、単なるアナクロニズムか、判断が難しいところである。


 今回の大統領選でも、やはり「社会党より左」の候補が大いなる人気を集めている。社会党を飛び出したジャン=リュック・メランション(60)だ。ただ彼は、単に鬱憤晴らしの支持を集めた前2回のトロツキスト候補とは訳が違う。抜群の組織力と論争能力を駆使しつつ、環境保護派のもたつきに巧妙につけ込んだ結果、侮れない、手強い人物として独自の地位を固めつつある。


 メランションは、もともと社会党で最左派に属した人物だ。若い頃からトロツキスト団体にかかわり、1968年のパリの学生運動「5月革命」では高校生運動の先頭に立った経験を持つ。職業高校のフランス語教師、地方紙記者などを務めた後、社会党ミッテラン派の地方自治体幹部として頭角を現した。ジョスパン内閣での職業教育担当相、元老院(上院)議員を務め、サルコジ政権誕生翌年の2008年党大会を機に「右派に一切譲歩しない党」を目指して離党、自ら「左翼党」を結成した。09年には欧州議会議員に当選した。

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