福島が消える――歴史に刻まれる現代の「棄民」

執筆者:吉野源太郎2012年3月11日

 東日本大震災から1年が過ぎた。被災地と住民の苦悩、難航する復興作業。その背後に、国民を見殺しにする国の姿が浮かび上がる。「棄民」――それこそが、歴史に刻まれるべきこの大事件の本質である。

帰村希望者は人口の3分の1

「帰村宣言」をした遠藤村長(筆者撮影)
「帰村宣言」をした遠藤村長(筆者撮影)

 東京電力福島第一原発の事故で故郷を追われた川内村は今年1月31日、被災自治体で初めて「帰村宣言」を発表した。事故後、「警戒区域」と「緊急時避難準備区域」に指定され、住民が県内各地に避難していた同村は、昨年9月の緊急時避難準備区域の指定解除を受けて具体的な準備を始めた。役場や学校、保育園などを4月1日に再開する予定だ。  しかし、久しぶりに故郷に帰還しようというのに、遠藤雄幸村長の口調は、まるで戦地に赴くように固い。 「もう後戻りはできない」  村は2月から3月にかけて、村民へのアンケート調査を実施したが、「皆一緒に村に帰りたい」という村長の希望はかなわなかった。回答した約1800人のうち「帰る」と答えた人は3分の1の約600人にすぎず、「帰らない」という答えは500人以上にのぼった。しかも、帰村を望む人にはお年寄りが多いのに対し、20代の若者の7割以上が帰らないことも明らかになった。  帰村を決めた人の表情も複雑だ。「除染が終わってからだったらよかったのに」。  川内村の放射線量は県内では比較的低いのだが、それでも被災前の主力産業だった農業や畜産業は風評被害などで壊滅状態。林業に至っては、森や林の線量測定もままならない。事故の前は多くの村民が東電の関連企業で働いていたが、今はもちろんその仕事もない。東京・八王子の金型製造企業の誘致に成功し8月から50人の雇用が確保されるが、他には頼れる「産業」がない。

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