プーチン新体制「圧勝」のあとのジレンマ

執筆者:遠藤良介2012年3月21日

[モスクワ発]3月4日に行なわれたロシア大統領選の勝利を祝う集会で、「強い指導者」を誇示してきたプーチン首相(前大統領)が涙を見せたことに驚いた方も多いのではないだろうか。昨年12月以降のモスクワなどでは反政権運動が盛り上がっていただけに、さすがのプーチン氏も「圧勝」を決めたことに感極まったのかもしれない。だが、プーチン氏の得票率64%という表面的な数字をもって、次期政権の6年間が安泰だとみるのは早計だ。

大規模デモはいったん終息へ

涙を浮かべて勝利宣言をしたプーチン氏 (C)EPA=時事
涙を浮かべて勝利宣言をしたプーチン氏 (C)EPA=時事

 ロシア大統領選後で初の週末となった3月10日、選挙が公正に行なわれなかったことに抗議する反政権派のデモがモスクワ中心部で行なわれた。目抜き通りの「新アルバート」を封鎖して約2時間、特設スクリーンも設けられた演壇には反政権派の政治家や著名人が次々と立ち、「ロシアは自由になる」「プーチンは(票を盗む)泥棒だ」などと訴えた。 「大統領選では出馬すら認められない反政権候補があったほか、(民間の選挙監視団体などによって)投票総数の10%にあたる不正が記録された。とても国内の政治状況を反映した選挙だったとは言えない」。デモに参加した映画脚本家の男性(30)はこう話し、「子供たちの時代には違う政治状況であってほしい。プーチンが勝ったからといって行動しないのは恥であり、法の枠内で出来ることをやっていく」と力を込めた。  モスクワでの大規模な反政権デモは、昨年12月4日に行なわれた下院選での不正疑惑がインターネットを中心に流布したことに端を発しており、今回で6度目だった。広告会社経営の男性参加者(41)は「蔓延する汚職をはじめ、プーチンの築いたシステム全てが気に入らない。(プーチン氏の前回大統領期から実質的に)12年間も権力が変わらないのはおかしい」と憤懣をぶちまけ、「われわれ(不満層)はどこにも消えない」と語った。  だが、このデモに加わったのは主催者発表でも2万5千人、警察は1万人だったとしている。昨年末には厳寒のモスクワでのデモが最大10万人規模にも膨らんでいただけに、大統領選を経て、反政権派の街頭行動が勢いを失っていることは明らかだった。庶民には「デモをやったところで、プーチンが大統領に当選した事実は変わらない」といった倦怠感が見られ、一連の大規模デモは夏場までにいったん終息するとみられている。

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