“プードル”に噛まれたメルケル

執筆者:佐藤伸行2012年3月21日

 去る3月18日、新たなドイツ大統領を選出する連邦集会が招集され、旧東独反体制活動家・牧師のヨアヒム・ガウク氏(72)が第11代大統領に選ばれた。メルケル首相の与党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と連立パートナーの自由民主党(FDP)、最大野党の社会民主党(SPD)と緑の党が支持した挙国一致の大統領だ。

 ガウク新大統領は、旧東独スターリン体制の暗黒の中で自由のための戦いを続け、ドイツ統一後はシュタージ(旧東独国家保安省)が冷酷な市民監視の下で収集・作成した膨大な個人情報資料を管理する通称「ガウク機関」の長官を務め、旧東独人権侵害の被害者救済に尽力した功績で知られる。

 前任のクリスチャン・ウルフ大統領が相次ぐスキャンダルの責任を取って辞任を余儀なくされた後とあって、ガウク新大統領への期待はすこぶる大きい。ドイツの「過去の克服」を説いたワイツゼッカー大統領や、ドイツのあるべき道徳的姿を指し示したヘルツォーク大統領以来の久々の「大型大統領」になるとの呼び声も聞こえてくる。

 ウルフ前大統領のスキャンダルによる辞任は、メルケルの責任も問われる事態になっていた。しかし、メルケルは結果的には、ガウク新大統領選出によって挙国一致態勢を築くことができ、前大統領辞任に伴う政治危機をうまく乗り切ったとして、「彼女は『新・鉄の女』どころか傷の付かない『テフロン加工の女だ』」といった論評も出るまでになった。元祖「鉄の女」のサッチャー元英首相を超え、「テフロン」と呼ばれた故レーガン元米大統領の域に到達したということらしい。

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