前代未聞の機密漏洩に揺れるバチカン

執筆者:秦野るり子2012年3月26日
昨年末、バチカンのサンピエトロ大聖堂で恒例のミサを行なったベネディクト16世 (C)EPA=時事
昨年末、バチカンのサンピエトロ大聖堂で恒例のミサを行なったベネディクト16世 (C)EPA=時事

 ドイツ出身のベネディクト16世(本名ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガー)が、世界に11億人の信者を持つカトリック教会の頂点であるローマ法王に選ばれてから4月で7年になる。  前任のヨハネ・パウロ2世に比べて国際社会での影は薄いうえ、一般信者の人気も低迷している。しかも、最近では、法王宛ての親書などバチカンの機密文書が漏れ出し、イタリア・メディアで連日のように取り上げられるという前代未聞の事件が発生した。奥の院からの情報漏洩は、カトリック総本山バチカン(ローマ法王庁)への信頼を著しく損なうとともに、バチカン官僚のトップであるタルチジオ・ベルトネ国務長官を軸とした内部抗争が起きていることを示している。

「異動」への不満を吐露した大司教

 漏洩事件でまず、注目されたのは、今年1月25日、イタリアの民間テレビ局「ラ7」の番組で明らかにされたカルロ・マリア・ビガノ大司教がベネディクト16世に送った2011年7月7日付けの書簡。当時、バチカン市国の行政を担う部門の幹部だったビガノ大司教は、駐米大使への異動をベルトネ国務長官から言い渡され、そのことについて、「私の仕事を非難するものであり、処罰に等しい」と不満を吐露している。
 ビガノ大司教は書簡の中で、ローマ法王は、ベルトネ長官が報告した大司教に関する誤った情報に基づいて今回の人事を決めたと、間接的表現ながら長官を批判。さらに「私が関与したデリケートな問題」が、法王から自分を遠ざけようと画策する動きの根底にあったとの見方を示している。このため、バチカン財政の透明化、正常化を強引に進めようとした大司教が、これを疎ましく感じたベルトネ長官に厄介払いされたのだろうというのが大方の見方だ。

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