「南米の盟主」に成り切れないブラジルの憂鬱

執筆者:田中直毅2012年4月11日

 南米大陸に地政学が生きていることを今回の訪問で初めて知った。南極に向って突き出たチリの先端から太平洋岸に沿って北上するようにアンデス山脈がパナマ地峡まで伸びている。太平洋岸のチリ、ペルー、エクアドル、コロンビアまで火山山脈と褶曲(しゅうきょく)山脈の2本線が伸びる。そしてコロンビアでは馬の背が3つになり、褶曲山脈は2つに割れてカリブ海に向うが、火山山脈はパナマまで伸びる。
 南米大陸を横に区切るのはアマゾン川だ。ペルー、エクアドル、コロンビアの山地の水がアマゾン川に合流して、ブラジルで巨大な盆地をつくり大西洋に流れ込む。このためアマゾン川は周辺を結びつける効果はもたず、太平洋岸沿いの国からすれば、アマゾンの密林はブラジルとの関係を遮断するものであった。彼らの表現を借りれば、「ブラジルは遠い」ということになる。
 そして、環太平洋の経済統合過程は間違いなくアンデス山脈沿いの各地を洗っているのだ。このことを最も意識しているのはコロンビアといってよいだろう。チリとペルーはすでに環太平洋経済連携協定(TPP)加盟の第1陣、第2陣を構成しているが、コロンビアは次の段階でTPP加盟の機会を窺っている。ここではBRICSの一翼を担っているブラジルの吸引力は決して強くない。コロンビアで対外経済政策が論じられるときには、域外からの投資の受け入れに当って、「ブラジル・コスト」の呼称があるブラジルの非効率性との対比で自らの魅力度を語るという手法まで存在するのだ。

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