4月19日、記者団の質問に答える東京電力次期会長の下河辺和彦氏 (C)時事
4月19日、記者団の質問に答える東京電力次期会長の下河辺和彦氏 (C)時事

 4月19日、難航していた東京電力の次期会長人事がようやく決まった。前トヨタ自動車相談役の奥田碩(79)や新日本製鉄名誉会長の今井敬(82)をはじめ元経団連会長クラスの大物財界人の起用を政府は画策したが、福島第一原子力発電所事故で実質的に経営破綻しているうえに、「伏魔殿」ともいわれる複雑な“官僚組織”に牛耳られている同社に切り込む蛮勇を持ち合わせた経営者は皆無だった。  無理もない。そもそも、16万人の福島県民に避難生活を強いている企業のトップを阿吽の呼吸で引き受けてくれるような使命感にあふれた民間人が簡単に見つかるはずがない。「被災者にアタマを下げて最もそれらしく見える人」という、まことしやかな人選基準が霞が関で囁かれていることから、本質を見失った半ば投げやりな政府内の雰囲気も伝わってくる。

「老人クラブ」

 奥田や今井以外に名前が挙がった候補はJFEホールディングス相談役の數土文夫(71)や富士フイルム社長の古森重隆(72)、日本郵船相談役の草刈隆郎(72)、新日本製鉄会長の三村明夫(71)、JR東海会長の葛西敬之(71)ら。ある財界関係者は「この数年、NHK会長人事などで名前の挙がった人ばかり。自民党政権でも民主党政権でも何かことあるたびに順繰りにポストを打診している。現政権が本当にこの国難に際して危機感を持って取り組んでいるのか疑いたくなる」と不信感を露わにする。
 確かに、葛西をはじめ、三村、古森らは前経済財政相の与謝野馨(73)と親しい経済人が作っていた「四季の会」メンバー。経済界の現役トップと強いつながりを持つ政治家が減る一方の中で、自民党政権でも民主党政権でも閣僚を務めた与謝野の人脈に永田町や霞が関の政官界関係者が群がっている構図だ。
 ただ、かつては「首相候補」の1人に目された与謝野も政界ではもはや「過去の人」。今回、東電次期会長候補として名前が挙がった面々も軒並み70を超え、顔ぶれからは「老人クラブ」の色合いが濃い。仮に、このメンバーの中から次期会長が輩出したとしても「そろって考えが保守的で、既存の組織が崩壊した東電に新しい秩序を植え付ける離れ業が出来そうなリーダーシップは望めそうにない」(前出の財界関係者)。日本では政官界だけでなく経済界も人材難であることを、東電会長人事の迷走は象徴していた。

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