プーチン氏の対日「柔道外交」

執筆者:名越健郎2012年5月1日
対日関係を重視はするが……(C)AFP=時事
対日関係を重視はするが……(C)AFP=時事

 5月7日にロシア大統領に復帰するプーチン首相は、アジア太平洋外交の強化を公約しており、対日外交を重視するだろう。プーチン氏は選挙戦中の3月1日、朝日新聞など西側メディア幹部との会見で、北方領土問題の「ヒキワケ」を提唱。就任後、両国外務省に「ハジメ」の号令をかけると述べた。日本を軽視していたロシア外務省幹部らはこの発言に仰天し、一転して日本との融和姿勢に転換したという。外務官僚は以前と同様、独裁者を恐れているのだ。「引き分け外交」が領土問題にどう影響するかを探った。

日露交流が目白押し

 日露関係は2010年11月のメドベージェフ大統領の国後島訪問で、日本側が大使を一時帰国させ、ロシア側は北方領土の軍備近代化を進めるなど、冷戦後最悪の段階まで落ち込んだが、東日本大震災後の「震災外交」でリセットされた。今年は両国の交流が目白押しで、かなり改善されそうだ。
 4月3日、日露外務・防衛当局者による安保協議が東京で開かれた。1月に訪日したラブロフ外相の強い要請により実現したもので、ロシア側はリャプコフ外務次官が代表を務めた。
 4月初めには、ロシア国営原子力企業ロスアトムのキリエンコ社長が訪日。5月に原子力協定が発効し、原子力協力が始まる。ロスアトムは東京に日本支店を開設。ホホエフ前外務省日本経済課長が初代支店長として着任した。
 6月4、5日、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の貿易担当相会議がカザンで開かれ、その際、日露投資フォーラムが開催される。ロシア側は枝野幸男経済産業相の参加を求めている。
 6月には大阪でロシア文化フェスティバルが開催され、ナルイシキン下院議長が出席する予定だ。ロシア下院議長の訪日は十数年なかったが、マトビエンコ上院議長が1月に訪日しており、上下両院議長がそろって年内に訪日することになる。
 9月には、ロシア正教会のトップであるキリル総主教が訪日する。総主教の訪日は12年ぶり。今年はロシア正教を日本に布教したニコライ神父の死去100周年で、函館や東京で記念行事が行なわれる。ロシア筋によれば、総主教はその際、東北も訪れ、津波で被災した宮城県石巻市の正教会の再建を図る予定だ。
 今年は日露首脳会談が少なくとも2度予定されている。5月のキャンプデービッドでのG8サミットと9月のウラジオストクでのAPEC首脳会議、それにロシアが正式メンバーとなった東アジアサミットでも開催の可能性がある。いずれもロシア側が日露首脳対話に意欲的だ。メドベージェフ大統領は昨年11月の首脳会談で、野田首相の年内訪露を要請した。対話が進展し、総選挙がなければ、野田首相の訪露もあり得る。
 それを受けて、プーチン次期大統領の来年の訪日も考えられる。今後、「ハジメ」の大号令で両国外務省の領土問題討議が進むなら、プーチン氏の次回訪日時が領土交渉の1つのヤマ場になるだろう。

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