インド経済が、またしても政治的思惑によって揺れ動いた。2012年度予算案に盛り込まれた「租税回避防止規定(GAAR)」の施行に対し、経済界はもとよりタックス・ヘイブンとして想定されたモーリシャス政府などが強く反発していた問題で印政府は7日、GAARの実施を2013年度まで1年間延期することを表明した。各企業や金融関係者はこの延期決定を一様に歓迎しているが、政府が本来やるべきことは、こんな小手先の税金集めではなく積年の課題である補助金の削減や逆ザヤ販売している軽油、LPガスなど燃料価格の正常化、そして小売市場をはじめとする重要セクターにおける外資規制緩和だ。それによって赤字を圧縮し、投資環境を改善して外資を呼び込むことこそ、高度経済成長の近道なのだ。

経済の足を引っ張る「政治」
 しかし、今回のドタバタは、財政赤字圧縮に苦吟する政府が厳しい政治決断を回避し、手っ取り早く金持ち投資家や大企業から税金を取ろうとして安易な策を弄したという印象が強い。折しも4月末には米格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)がインドの格付け見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げたばかりだが、その理由は「脆弱な政治情勢の下で財政健全化が進展しなければ成長力の低下と対外信用の悪化を招く」というものだった。政治家が目先の選挙を心配するあまり、国民に痛みを強いる改革に躊躇し、結果的にインド経済が持っている潜在力を十分に引き出せていない、というわけだ。

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