アフリカとネオリベラリズム

執筆者:平野克己2012年5月12日

 アフリカにネオリベラリズムが入ってきたのはいつか。通常は1980年代に始まった世界銀行・IMFによる構造調整融資といわれる。構造調整は、1997年のアジア通貨危機ですっかり評判を落とし政策としては既に消滅したが、その開発論と援助論はサブサハラ・アフリカを想定して作られ精緻化されていったものである。構造調整が消滅して以後、これに代わる開発論や援助論は登場していない。現在は開発論不在の時代といってよい。

 その魁は、1981年に世銀が出した『サブサハラ・アフリカの開発促進』、通称バーグ報告と呼ばれる文書である。このころのアフリカ諸国は石油危機によってマクロ経済バランスが崩壊寸前に追い込まれ、借金が返せなくなっていた。バーグ報告は、債務救済を行う条件として経済改革の思想を述べたものだった。そこに書かれてあるのは、しかし、ネオリベラリズムというよりごく普通の経済学の論理である。

 アフリカ諸国の国際収支が大幅赤字になったのは輸出産業を圧迫しているからだ。また、農民の生産意欲を引き出すような政策を行っていないので食糧輸入が増えているからでもある。これがバーグ報告の現状認識だった。当時のアフリカには過剰な経済介入があって、為替も外貨も、国によっては食料価格も統制されていた。GDPのおよそ4割は政府の手中にあって、そこから生まれる権益は特権層のなかで分配されていたのである。政治学ではこれをパトロン=クライアント関係、あるいは新家産制国家という。経済を再生させるためにはこのような政策を改め、もっと市場機能を活用して生産者に有利な環境を作らなくてはならない--バーグ報告を要約すればそういう内容だったのである。

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