6月21日に会期末を迎える通常国会最終盤での最大の焦点は、言うまでもなく消費税増税を含む一体改革法案を審議する衆院社会保障・税一体改革特別委員会での与野党攻防である。ここが勝負どころと踏んだ自民党は、この委員会のメンバーに伊吹文明元幹事長(当選9回)、野田毅元自治相(同13回)、町村信孝元官房長官(同10回)ら派閥領袖や閣僚経験者の重量級議員を起用した。
 その中でも、特別委員会運営における野党側の代表者である筆頭理事に就任したのは、よく言えば経験豊富で知恵が働く、悪く言えばうるさ型で頑固者として知られる伊吹氏である。
 民主党が伊吹氏への対応にてこずることは間違いない。伊吹氏はすでに「特別委では私が幹事長と国会対策委員長を兼ねる」と独裁を宣言。さらに、審議日程の調整でごねて民主党を困惑させている。ただ、特別委を混乱させて法案を潰してしまえばいいという単純な考えの持ち主ではない。

自民党の計算

「消費税増税というのは鳴かないホトトギスみたいなものだ」
 伊吹氏は4月はじめ、自らが会長を務める派閥「志帥会(伊吹派)」の総会で消費税増税関連法案の審議の見通しについて、こう語った。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の3人の性格をホトトギスの鳴かせ方の違いで表した平戸藩主、松浦静山の作と言われる落首があるが、伊吹氏はこれを引用しつつ、以下のように続けた。
「織田信長は『鳴かぬなら殺してしまえ』と。殺してしまっては財政、年金、医療、介護はどうなる。徳川家康は『鳴かぬなら鳴くまで待とう』と言う。待っていると継続審議になり、9月に自民党総裁選と民主党代表選がある。そうすると結果的にまた遅れる。だから、ここは『鳴かぬなら鳴かせてみせよう』という豊臣秀吉の姿勢でやらないといけない。それは与野党が話し合いをするってことなんだ。殺してもダメ、待っていてもダメ。やはり政治家は鳴かせてみようという努力をしないといけない」
 野田佳彦首相が政治生命をかける消費税増税関連法案を成立させるためには、なんとしても野党第一党である自民党の協力がほしいところだ。もちろん民主党内の意見統一が図れていないことも問題だが、仮に民主党内がまとまったとしても、与党が過半数割れしている参院では、今のところ法案が可決するあてがない。
 こうした民主党の足下をみて、自民党は法案審議に協力するためのさまざまな条件をつけている。法案の中身については、消費税率を10%に引き上げるという点では、自民、民主両党は一致しているが、これを財源とする年金制度については、民主党がこだわる最低保障年金制度の導入に、自民党は真っ向から反対している。協力してほしければ我々の主張を取り入れろ、というのが自民党の言い分である。
 伊吹氏は消費税増税には反対せず、「話し合い」による決着を奨励してはいる。だが、表向きは「話し合い」でも、内実は民主党に対して自民党の意向を丸のみしろと強要しているのに等しい。ホトトギスを鳴かせる努力をするのは自民党ではなく、あくまでも民主党なのだ。
 民主党が自民党案を丸のみすれば、自民党は法案に賛成するしかない。短期的には野田首相を助けることになる。だが、その場合は法案採決に伴って、増税に反対している民主党の小沢系の造反を誘発し、民主党を分裂に追い込めるし、話し合いによる衆院解散の可能性もある。逆に民主党が自民党の主張をのまなければ法案は成立せず、野田首相は退陣あるいは解散総選挙に追い込まれる。
 どちらにしても、自民党には損がない。そういう計算が働いているのだろう。

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