「普天間切り離し」でも漂流する日米同盟

執筆者:柳澤協二2012年5月21日
4月30日、共同記者会見で握手する野田首相とオバマ大統領 (C)時事
4月30日、共同記者会見で握手する野田首相とオバマ大統領 (C)時事

 4月末、野田佳彦首相が訪米してオバマ大統領と首脳会談を行ない、6年ぶりとなる日米共同声明「未来に向けた共通のビジョン」を発表した。多くのマスコミは、普天間基地の固定化の懸念は残るが、軍事力で存在感を増す中国の戦略を睨みながら、日米の同盟関係は深化したと報じた。そこでは、日米同盟が「アジア太平洋地域における平和、安全保障、安定の礎(cornerstone)である」ことが確認され、鳩山政権以来「漂流」していた日米同盟をつなぎ留めたかに見える。

ビジョンの見えない「共通ビジョン」

 鳩山政権による同盟漂流の原因は、米海兵隊普天間基地の移設をめぐる混乱だった。今回、首脳会談に先立って行なわれた外務・防衛閣僚による日米安全保障協議委員会(2+2)では、米海兵隊のグアム移転と06年以来の懸案であった嘉手納基地以南の米軍施設の返還を、普天間移設問題と切り離して進める「米軍再編見直し」に合意している(2+2共同発表)。
 その背景には、台頭する中国に対する軍事的優位を維持したい米国が、議会に拒否されている海兵隊のグアム移転経費の復活を急ぎ、そのために、日本側の負担を確定しなければならない事情があった。野田政権としても、消費税法案の審議入りに向けて、日米同盟のこれ以上の不安定化は避けておかなければならなかった。
 今回の合意によって、普天間をめぐって膠着していた日米の戦略協議が動き出すことになった。だが、問題の本質は、米軍の配置をどうするか、その前提となる対中軍事戦略をいかにすり合わせるか、という点にある。その意味では、今回の合意文書は、「共通のビジョン」という表題とは裏腹に、ビジョンの見えない曖昧なものにとどまっている。

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