世界が感じ始めた「欧州の日本化」という現実

執筆者:青柳尚志2012年6月22日
ゼロ泊3日の強行軍でG20に出席した野田首相(c)EPA=時事
ゼロ泊3日の強行軍でG20に出席した野田首相(c)EPA=時事

 これは形状記憶合金とでもいうべきなのだろうか。消費税率を段階的に10%に引き上げる消費増税法案に、自民、公明の両党が歩み寄り民主党との3党合意が成立した。決められない政治という常套句をよそに、日本の政治は財政再建に一歩を踏み出した。野田佳彦首相はさぞや鼻が高いだろう。  1994年に成立した自社さ3党連立を想起させる今回の3党合意。合意を促した影の主役は2人いる。橋下徹大阪市長と小沢一郎元民主党代表だ。橋下市長は「消費税は地方財源に」という立場から、小沢元代表は「増税は景気悪化を招く」との立場から、それぞれ消費増税に反対してきた。

橋下と小沢の躓き

 野田首相と谷垣禎一自民党総裁は電話などで頻繁に連絡を取り合い、消費税とともに政局の問題を語り合った。2人に追い風が吹いたとすれば、橋下、小沢の両氏が思わぬところで躓いたことだろう。
 橋下市長は関西電力・大飯原子力発電所の再稼働問題。「安全性が保証されない限り、再稼働は認めない」。元経済産業省の改革派官僚、古賀茂明氏の主張に乗って、威勢良く啖呵を切っていたが、結局は再稼働を容認せざるを得なかった。東大阪などの中小企業経営者に突き上げられたためとされる。
「電気がとまれば、工場もとまり、会社がつぶれてしまう」「親会社が日本を逃げ出し、商売があがったりだ」。そんな罵声を浴びて路線転換を強いられた。反橋下派が流布するそんなストーリーが、今回ばかりは妙に説得力を持つ。橋下人気がこれで失速するとは思えないが、一時の常勝将軍のオーラは消えた。
 小沢氏については、夫人が支持者に充てた手紙が週刊誌に暴露されたことが、痛手となった。「放射能が怖くて地元の岩手に帰らない」。その一節が政治家としては致命傷だった。「官邸が情報操作した」。小沢陣営の苦し紛れの言い訳に、官邸関係者は「そんな簡単に情報操作できるようなら苦労しませんよ」と苦笑する。
 とりわけきついのが、小沢ガールズなどと呼ばれる新人女性議員たちだろう。家庭の主婦など女性は男性以上に福島原発事故以来、放射能問題には神経過敏だ。執行部の原発事故対応のまずさを批判していた小沢陣営の親分が、よりによって敵前逃亡していたとは。女性議員たちが次の選挙で矢面に立たされ、そろって討ち死にするのは必至だ。
 それはそれで結構なことだ。小沢元代表は消費税増税なら新党結成もと強がりをいうが、「党を出て行くならどうぞ。選挙が怖くて誰も付いていきませんよ」というのが、野田首相の本音だろう。かくて野田、谷垣両氏を軸に「消費税提携」が成立しつつある。

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