「バチカン銀行の闇」スキャンダル第2幕へ

執筆者:秦野るり子2012年7月23日

「バチカン銀行」総裁を5月末に解任されたエトレ・ゴティテデスキ氏が、今度はイタリア司法当局の家宅捜索を受けてバチカン銀行の内部情報を記したメモを押収され、「命の危険を感じる」とおびえている。メモによって、バチカン銀行とこれを不正利用する者とのつながりが明らかになり、それによって不利益を被る何者かに報復されると恐れていると報じられているのである。ミステリー小説のような展開は、30年前に死者までが出たバチカン銀行の大スキャンダルを髣髴とさせる。今年1月の機密情報漏洩事件(バチリークス)から始まったバチカンのスキャンダルは第2幕を迎えた。

「不透明性」への批判

5月末に「バチカン銀行」総裁を解任されたゴティテデスキ氏 (C)AFP=時事
5月末に「バチカン銀行」総裁を解任されたゴティテデスキ氏 (C)AFP=時事

「バチカン銀行」は正式名称を宗教活動支援機関(IOR)といい、1887年にその前身が創設され、1942年に改組されて現在の形となった。各地の教会、修道会、聖職者のカネを預かり運用する。外部勢力から資金凍結などの手段で介入されることなくカトリック教会の資産を守ることが使命だと、宗教団体であるバチカンは銀行を持つことの正当性を主張してきた。一方で、主権国家でもあるバチカンが金融機関を運営すれば他国の捜査が及ばないことから、欧州の富裕層が脱税の手段として利用したり、マフィアなどがマネーロンダリングに使ったりしているとの批判を受けてきた。  ゴティテデスキ氏解任を巡っては、同氏の総裁としての資質が不十分だったからだと説明されているが、真の理由は、バチカン銀行の透明性を国際標準まで高めようという同氏の姿勢を、ローマ法王に次ぐ実力者のタルチジオ・ベルトネ国務長官(枢機卿)が嫌ったからだとされる。  バチカンはマネーロンダリングに対する国際的な締め付けが厳しくなる中、これに呼応しなければ批判は高まる一方だとして2009年、欧州連合(EU)と協議の末、新法の制定と、カネの流れを監視する独立機関となる金融情報機関(AIF)の設立を決めた。同時期に金融専門家のゴティテデスキ氏を外部から総裁に迎えたのも同じ理由であった。  そして2010年末に公布された新法は、AIFがバチカンのすべてのカネの動きを調査する無制限の権限を持ち、バチカン銀行の口座に関する秘密保持を改め、匿名での口座開設を受け付けないことなどを規定した。

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