「増税日本」の前に広がる世界景気の積乱雲

執筆者:青柳尚志2012年7月27日
IMFへの資金拠出をいち早く表明した野田首相(左はIMFのラガルド専務理事)(c)AFP=時事
IMFへの資金拠出をいち早く表明した野田首相(左はIMFのラガルド専務理事)(c)AFP=時事

 河村たかし名古屋市長が率いる政党名を一部拝借すれば、「増税日本」ということになろうか。野田佳彦首相のぶれない政治姿勢は予想以上だった。反増税を掲げる小沢一郎一派の離党を尻目に、自民、公明と組んで消費税増税を成立させる段取りだ。  反対派である小沢一派が去り民主党内を純化したのを弾みに、9月8日にロシア・ウラジオストクで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議では、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉参加を表明するとみられている。

“優等生”日本とIMFの阿吽の呼吸

 そういえば、このところ日本は優等生なのである。7月5-7日に日本を訪れた国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は、日本が打ち出したIMFへの資金拠出にお礼を述べた。欧州債務危機に対処するため、IMFは各国に資金協力を求めていたが、米国がウンといわず、中国など新興国も「最も豊かな欧州をなぜ助けなければならないのか」と首を縦に振らない。
 そこで日本が全体の拠出要請額4300億ドル(約34兆円)のうち、600億ドルを出すとの方針を打ち出した。野田首相はIMFへの拠出方針を、メキシコ・ロスカボスで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)の初日である6月18日にも、表明してみせた。「いまだ具体的な貢献額を発表していない国は、貢献額を発表し市場の安定に努めるべきだ」と野田首相。その発言に触発されたのか、ブラジル、インド、ロシアもそれぞれ100億ドルの拠出を表明した。
 BRICsといえば、中国はIMFへの拠出に最後まで四の五の言っていた。だが他のBRICs諸国による拠出意向が相次ぐと、すでに発言を終えていた胡錦濤主席が再度発言を求め、430億ドルの拠出を表明した。「バスに乗り遅れるな」という訳だろう。先鞭をつけた日本はG20サミットで思わぬ存在感を発揮したことになる。
 ラガルド専務理事がお礼を述べたのは、こうした背景があったからである。「見返りも求めずに貢献を打ち出す日本はいいカモだ」という類のコメントが日本のメディアに散見されたが、国際会議はあからさまなやり取りばかりが能ではない。グローバルな経済秩序を維持する側にいるのだとはっきり示すことも、立派な経済外交というべきだろう。
 実はIMFへの貢献には、ひとつの見返りがあった。IMFが対日経済審査報告のなかで、最近の円相場について「中長期的にみてやや過大評価」と表現してみせたのである。従来はどんなに円高が進んでも「おおむね均衡状態」と言っていたのだから、大きな変化である。円高是正のための市場介入について、おおっぴらには是認しない代わりに、黙認はするというシグナルだろう。
 今の国際金融不安の根元にあるのは欧州債務危機。世界経済の下押し材料になるとともに、欧州からの資金逃避が円高の要因ともなっている。日本によるIMFへの資金拠出や欧州金融安定基金(EFSF)債の購入などは、欧州債務危機に歯止めをかけるのが狙い。一方、IMFが円高に理解を示したのも、欧州危機が背景にあるのを承知していればこそ。ラガルド専務理事は前職が仏財務相とあって、その辺の呼吸をよく心得ているといえる。

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