介護を受けたくても受けられない高齢者が全国で溢れている。要介護度の高い人が比較的安価に入居できる「特別養護老人ホーム」(特養)には、全国で40万人以上の待機者がいるほどだ。
 高齢化社会の深刻化に伴い、介護が必要な人は今後さらに増えていく。一方、団塊世代が70代後半を迎える2025年には、100万人近い介護職の不足が見込まれる。たとえ特養のようなハコモノを増やしても、肝心の働き手がいないのである。
 民主党は2009年の総選挙で介護職の待遇改善をマニフェストに掲げたが、わずかばかり賃金を引き上げたところで人手不足の解消は困難だ。介護現場が期待を寄せた外国人介護士の受け入れにしろ、人手不足解消には全く役立たず、税金の無駄遣いを招くだけに終わっている。(2012年4月4日「根本が間違っている『外国人介護士』問題」参照)。このままでは、日本中に「介護地獄」が生まれかねない状況だ。

毎日12時間で月1万7000円

 だが、どうしても介護が必要な人には“裏ワザ”もある。日本を離れ、物価の安い海外で介護を受けるのだ。
 福岡県在住の千葉和夫さん(78歳)は2年前、単身で年金生活を送っていたタイで持病の糖尿病が悪化して倒れた。約1カ月を現地の病院の集中治療室で過ごした後、一般病棟に移ってからは個人で介護士を雇ってリハビリを始めた。入院先となった病院では、日本のように看護師からの手厚いサービスは望めなかった。そこで病院の勧めもあって、民間業者に介護士の派遣を依頼したのだ。
「足が悪くて1人では歩けなかったんです。介護士は20代の女の子でしたが、トイレには連れていってくれるし、シャワーを浴びるときには身体も洗ってくれた。おかげで助かりましたよ」
 千葉さんは退院後も、日本に帰国するまで介護士の付き添いを頼んだ。朝9時から夜9時まで毎日12時間の付きっきりで、費用は月7000バーツ(約1万7000円)。日本では考えられない安さである。
 現在、千葉さんの体調は1人暮らしができるまでに回復している。とはいえ、高齢の身にはいつ何が起きるか知れない。頼れる身寄りもなく、ワンルームマンションの生活では近所付き合いすら全くないのである。
「もちろん、誰かついてくれたら安心だよね。その点では、タイの暮らしはよかった」

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