国連教育科学文化機関(ユネスコ)の事務局長を務めるブルガリア人女性イリナ・ボコヴァ氏は、同国南西部の田舎、イスラム教徒が多数を占める村の家系の出身である。そこで、キリスト教徒とイスラム教徒は争いもなく、何世代も一緒に過ごしてきた。「子どもの頃から私にとって、イスラム教徒は兄弟のような存在でした」。2009年に彼女が事務局長に就任した際、こう話していたのを思い出す。

 正教やカトリックの社会の中にイスラム社会が点在するバルカン半島では、ボスニア・ヘルツェゴビナやコソボの例を挙げるまでもなく、宗教の枠組みがしばしば紛争に結びついた。その中で、ブルガリアでは8割あまりのブルガリア正教徒と1割あまりのイスラム教徒が穏やかな共存関係を維持してきた。それが、ブルガリアの大きな誇りであり、イスラエルとアラブ世界双方に対するバランスの取れた外交政策にもつながっていた。

 それだけに、7月18に東部ブルガスで少なくとも6人の犠牲者を出したテロの衝撃は、事件から2週間を過ぎても冷めていない。標的となったのがイスラエル人の団体であり、自爆テロと見られることから、イスラム過激派の関与が濃厚だ。日本ではさほど大きく報道されなかったが、ブルガリア国内は「ここ20年で最大の出来事」「ブルガリアの9・11」(地元紙)と受け止めている。

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