シリア内戦とイラン核武装論

執筆者:会田弘継2012年8月20日

 国連とアラブ連盟の合同特使として停戦を目指してきたアナン前国連事務総長も匙を投げた。特使辞任を表明した8月2日、シリア内戦は「沈静化の兆しも見えない」とアナン氏は英紙「フィナンシャル・タイムズ」への寄稿で言い、「バシャール・アサド(大統領)は辞任すべきだ」と、きっぱり退陣を求めた。だが「国際社会は何の力も発揮できていない」。特にロシア、中国、イランに対し、アサド政権を説得するよう要請した。【My departing advice on how to save Syria, The Financial Times, Aug. 2】

シリアという複雑なパズル

 チュニジアから始まったアラブの春を受け、昨年4月から続くシリア政府と反政府勢力の衝突は、内戦状態に陥り、死者は2万人以上、国外への難民も15万人を超えている。事態が悪化する一方なのは、イスラエルに隣接するこの国がさまざまな大国の利害と、中東の各宗教勢力が交差する「十字路」になっているからだ。複雑なパズルのようで、事態解決への糸口が見つからない。
 イスラム教シーア派の系統とされるアラウィー派やキリスト教徒らの少数派がアサド政権を支えてきた。いま、多数派のイスラム教スンニー派が反政府勢力として少数派連合の政権を追い出そうとしている。反政府勢力を支援するのはスンニー派総本山サウジアラビア。反政府側には、アルカイダ系の組織も入り込んでおり、アメリカもそれは早くから承知していた。そうした複雑な情勢を現場から描き出すのが、インド人ジャーナリストによる米紙「ニューヨーク・タイムズ」への寄稿「崩壊するシリアの多元主義」だ。事態の複雑さが分かる。 【Syria’s Crumbling Pluralism, The New York Times, Aug. 3】
 複雑さを加えているのが、イランだ。シーア派総本山イランはアラウィー派のアサド政権と盟友関係を持ち、シリアを通じてレバノンのシーア派組織ヒズボラを支援している。ヒズボラはレバノンからイスラエルに攻撃を仕掛けてきた。アナン氏がロシア、中国と並べてイランの協力を求めたのは、そうしたつながりからだ。
 そのイランは、核開発をめぐり欧米と対立し、イスラエルがいつ核施設破壊の攻撃を仕掛けてもおかしくないという観測がもっぱらだ。米外交誌「フォーリン・アフェアーズ」は1・2月号に米外交評議会研究員の「いまこそイラン攻撃を」というエッセーを載せ、攻撃の是非をめぐる論争が続いてきた。【Time to Attack Iran, Foreign Affairs, Jan./Feb.】

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