台湾の中国時報で離職者続出

執筆者:野嶋剛2012年8月21日

台湾の「中国時報」は長く台湾知識人の拠点のような役割を果たしてきた新聞で、1990年代の民主化では、リベラルかつクオリティの高い新聞として圧倒的な信頼度を誇っていた。優秀な記者が多く、地元メディアを情報源とする外国の記者としては、中国時報の記者たちのネットワークをちゃんと押さえておけば、台湾の政治情報はつかめる、という状況だった。

その中国時報で、いま幹部の離職者が続出している。10年来の友人である副総主筆の荘さんも先週に辞めてしまい、そのときちょうど台湾にいたので、最後の勤務日の夜に一緒に食事した。「今日まで社員だし、自分の愛する中国時報の悪口はあまり言いたくない」と内部で何が起きたかについて詳しくは語らなかったが、とにかく寂しそうで心が痛んだ。

離職の原因は、同紙の急激な親中化とオーナーによる報道の私物化にある。中国時報グループはその傘下に複数のテレビ、雑誌、出版社まで抱える台湾最大のメディアグループで、創業者の余紀忠がずっと経営のたづなをにぎってきた。しかし、2009年に中国でスナック菓子のビジネスで大成功を収めた台湾の企業家・蔡衍明の旺旺グループに買収されてから、その中道リベラルの路線(陳水扁政権末期には中道保守に傾きつつあったが)を一気に親中路線に転換。紙面を挙げて、中国との関係強化をアピールするようになった。

記事全文を印刷するには、会員登録が必要になります。