米大統領選「人工妊娠中絶」をめぐる攻防

執筆者:足立正彦2012年10月12日

 ミット・ロムニー共和党大統領候補は女性有権者の間での支持率がバラク・オバマ大統領のそれよりも低く、男性有権者との間で大幅な格差が生じる、所謂「ジェンダー・ギャップ」が存在しているのではないかとの議論について、かつて取り上げた(8月30日「『ジェンダー・ギャップ』に直面する共和党正副大統領候補」)。だが、10月3日にコロラド州デンバーで行なわれた第1回大統領候補討論会のあと、女性有権者の間でのロムニー支持が大幅に改善しつつあることが最近相次いで公表された各種世論調査結果で明らかになっている。

 世論調査会社ピュー・リサーチ・センターは、第1回大統領候補討論会が終了した翌4日から7日までの4日間に実施した最新世論調査を今月8日に公表したが、女性有権者の間でのロムニー支持がオバマ支持と全く互角の47%に達した。ピュー・リサーチ・センターが9月19日に公表した前回世論調査では、女性有権者の間でのオバマ、ロムニー両候補の支持率はオバマ56%、ロムニー38%と実に18ポイントもオバマ大統領が優位だった。

 こうした中、女性票獲得を巡り、人工妊娠中絶に関するオバマ、ロムニー両候補の攻防が始まった。ロムニー候補は10月9日に行なわれたアイオワ州の地元有力紙Des Moines Registerの編集委員らとの取材を兼ねた意見交換の場で、自らが大統領に就任した場合、人工妊娠中絶関連法案の提出についてはホワイトハウスの優先政策課題としては考えていないと発言した。ところが、翌10日に「激戦州」の1つであり、ロムニー候補がオバマ再選を阻止するためには絶対に勝利しなければならない中西部オハイオ州での遊説中に、ロムニー候補は同行記者らに対し、自分は生命の尊厳を重視する大統領になると述べた上で、大統領に就任した場合、直ちに講ずべき措置は、医療サービス機関「家族計画連盟(Planned Parenthood)」に対する連邦政府の補助金を停止することであり、自らの大統領予算案には同機関向けの予算は盛り込まれないと明言したのである。

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