台湾からジミー・ライ=黎智英が去った日

執筆者:野嶋剛2012年10月24日

 台湾にいたこの週末、香港の企業家・黎智英(ジミー・ライ)が台湾における すべてのメディア事業を、台湾の中国信託・台湾プラスチックなどの企業連合に175億台湾ドルで売却することが決まったとのニュースが流れた。ある種の感 慨が胸に湧いてくると同時に、台湾の言論へのマイナスの影響について嫌な予感も覚えた。


香港で「ジョルダーノ」などのアパレルを成功させ、新聞・雑誌でも成功を収めてメディア王にもなった黎智英は、12年前に台湾に進出し、日刊紙「りんご日報」や週刊誌「壹週刊」などを相次いで立ち上げた。

台湾にはなかった「八掛(スキャンダル)」と「狗仔(パパラッチ)」の手法をひっさげて、台湾メディア界に文字どおり殴り込みをかけたのだが、その戦略は大成功し、あっという間に最大部数の新聞と週刊誌に成長した。

とにかく過激で面白いストーリーを載せる「りんご日報」と「壹週刊」は、特 派員として台湾にいたときも真っ先に開いてしまう新聞だった。両方で年間10億台湾ドル(30億円)の利益を稼ぎ出しているといわれた。この2つの活字媒 体の方は問題なかったのだが、2009年に満を持してテレビ進出のために創設した「壹電視」がなかなかうまく軌道に乗らず、放送免許をとったあとも放送するチャンネルが見つからずにネットだけでしか放送できず、ひたすら活字の黒字を食いつぶす存在になってしまった。

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