中欧チェコの大統領と言えばまず、あの「ビロード革命」の立役者である故ハベル氏が思い浮かぶ。ビロード革命は、威厳ある平和的な行動によって抑圧的国家体制を葬り去ることができる人間の力を教えてくれた。
 ハベル氏の後を襲った現職のクラウス大統領は反ユーロの論客であり、欧州統合プロセスへの懐疑論者で知られる。毀誉褒貶にさらされてはいるものの、長年にわたって革命後のチェコの舵取りを担った重力は圧倒的である。そのクラウス大統領も今任期をもって退任し、来年1月、ビロード革命後3代目となる大統領を選ぶ投票が行なわれる。選挙は従来のような議会の間接選挙ではなく、チェコ史上初めて有権者の直接投票で実施されるもので、有力候補として首相経験のあるヤン・フィシェル氏やミロシュ・ゼマン氏らの名が挙がっているが、日本にはほとんど馴染みのないお歴々である。

「プラハのアメリカン・ドリーム」

チェコ観光協会の「顔役」のオカムラ氏 (C)時事
チェコ観光協会の「顔役」のオカムラ氏 (C)時事

 ところが、そんなチェコ大統領選が我が国にとって俄かに身近に感じられる出来事が起きた。  チェコの日系人が出馬を表明したのだ。日本人を父に、チェコ人を母親に持ち、チェコ観光業で成功を収めた実業家トミオ・オカムラ氏(40)だ。 オカムラ氏はこの10月、上院選に出馬して当選したばかりだが、その熱気に包まれる中で、次期大統領選に立候補すると宣言した。  今のところ、支持率は6-7%にすぎないものの、オカムラ氏は、本人のホームページの表現を借りれば、「プラハのアメリカン・ドリーム」の体現者として知名度は抜群であり、上院議員当選・大統領選出馬を通じて政界での足場を拡大していく腹積もりのようだ。  プラハのアメリカン・ドリームというのも妙な言い回しだが、徒手空拳の若者にすぎなかったオカムラ氏は、裸一貫から身を興した立志伝中の人物とも言える。大手旅行代理店のプラハ支店長として大勢の日本人観光客を呼び寄せる販路開拓に功績があり、日本食材の輸入分野にも手を広げている。  チェコ観光協会の「顔役」となり、ビジネス関係の視聴者参加型テレビ番組にも出演。メディアへの露出は多い。2年前には「チェコ・ドリーム」と題する本を出版、ベストセラーになった。昨年春にも2冊目の「統治の技法」なる本も上梓した。

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