ロシア国防相解任で政権基盤に陰り

執筆者:名越健郎2012年11月8日

 ロシアのプーチン大統領が11月6日、不動産汚職疑惑に絡んだセルジュコフ国防相を唐突に解任したことは、従来のプーチン人事からすれば異例の展開となった。軍や官僚の汚職腐敗、メディアへの情報リーク、権力闘争など、プーチン大統領の政権統率力が弱まりつつある印象を受ける。

 セルジュコフ国防相はサンクトペテルブルクで家具売買をしていたビジネスマン出身で、軍歴がない。大統領に近いズブコフ前第一副首相の女婿。2007年に国防相に抜擢された後、プーチン路線に沿って、兵力削減や機動的な軍への再編に大ナタを振るい、国防予算大幅増を背景に、軍改革は比較的スムースに進んでいた。プーチン大統領が、成果を挙げていた身内のサンクト派幹部を更迭したのは初めてだ。同大統領は閣僚をめったに解任せず、いったん任命すると、かなりの裁量権を与えてきた。

 だが、10月以降、国防省の関連会社「国防サービス」が軍の不動産を不当に安く売却し、横領などで30億ルーブル(約80億円)以上の損失を出し、捜査当局が捜査を開始したことが報道されるに及んで、これ以上の打撃を避けるため、更迭に踏み切ったようだ。

 この汚職疑惑事件はロシアで大きく報じられ、イズベスチヤは、「関連会社が軍保有のアゾフ海岸の土地を安く売り、セルジュコフ氏の別荘が建てられた」と報じた。ベドモスチ紙は「国防省幹部人事をめぐり、連邦保安局(FSB)とセルジュコフ氏が激しく対立した結果だ」と伝えた。モスクワ・タイムズは「セルジュコフ氏の軍改革成功をねたんだセルゲイ・イワノフ大統領府長官(元国防相)や国防産業の利権を握りたいロゴジン副首相らが解任に動いた」と分析した。軍改革をめぐる軍保守派と改革派の権力闘争説も伝えられた。

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