反日デモで放火されたトヨタの販売店(c)時事
反日デモで放火されたトヨタの販売店(c)時事

「不買運動」というものの恐ろしさを、日本の自動車メーカーほど痛切に感じている企業は世界にないだろう。かつて日本では高度成長期に消費者団体が何らかの理由で特定企業を批判し、その会社の製品を買わないという運動を展開したことがあった。アラブ世界ではイスラエルに協力的な企業の製品を買わないように指令を出す「アラブボイコット委員会」という組織があり、サウジアラビアやクウェートなど湾岸諸国ではコカ・コーラがボイコットされ、長らくペプシコーラしか飲めない時代もあった。  だが、今回の中国の反日不買は特定組織が呼びかけ、消費者を無理に従わせているという構図で起きているわけではない。中国の庶民が日本の尖閣諸島国有化に強い反発心を持ち、個人として日本製品を買いたくない気持ちを強めているのが実態だ。その底流には江沢民・元総書記時代に強化された反日教育の多大な影響があり、長らく日中間にささったトゲである歴史問題、さらに首相の靖国神社参拝などもある。

更新され、蓄積されていく反日感情

 もちろん中国には日本製品愛好者も多く、日本製品の「高機能、高品質、安全、安心」という要素は中国の消費者に今も強く認識され、日本製品を支持する動機になっている。だが、そうした理屈とは別に感情論として日本製品に手が伸びなくなっている。「今まで日本製品が好きで、今も日本製品への評価は変わらないが、日本製品を買うことを自分の心が許さなくなった」というのが一般的な中国の消費者なのである。
 こうした感情は一過性のもので、今回の反日騒動の記憶が薄れれば、日本製品への不買も収まり、売り上げは回復するという見方をする日本人ビジネスパーソンは多い。中国駐在の日本人にも「自分の周囲の中国人は以前とまったく変わらず、日本製品を買っている」と楽観的に考える人も少なくない。しかし、冷静に考えれば、日本人と付き合いのある中国人が日本人に示す表向きの態度、考えが彼らの真意を示しているはずはない。日本人ビジネスパーソンに対しては思いやりも含めて親日的な面を出しているにすぎない。日本人が今回の反日デモで、中国に対して強い憤りを感じながらも、身近な中国人にはそうした感情を出さないのと同じである。
 小泉純一郎元首相の靖国参拝はまさしく一過性の話で、1週間もすれば記憶が薄れるが、尖閣諸島の国有化は事実そのものが永続する。日本政府が「領土問題は存在しない」といくら主張したところで、中国側が今回、明確に領土紛争と位置づけ、国民的運動として盛り上げてしまった以上、尖閣問題は靖国参拝とは比較にならない巨大なエネルギーを持つ。今後も尖閣をめぐり日中間の軋轢が起きる度に中国人の「反日」の感情は更新され、蓄積されていく。また、中国共産党にとって日本以上に国民が一致して反発できる効果的な“敵”はないため、今後も便利なカードとして使われるのも間違いない。

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