長く中国を取材していてよく感じた違和感の1つに、中国人の強国意識の矛盾があった。中国が大国であることは世界の誰も異存のないところだ。人口も面積も歴史も大国の名にふさわしい。ところが、これが強国かどうかとなると、議論百出、中国人の間でもはっきり意見が割れた。

 中国人自身の内面に歴史的経緯で埋め込まれた「強国ではない」という根深い劣等感があると同時に、近年の経済発展や軍備拡張によって「強国になった」という優越感が急激に拡大し、劣等感と優越感との間を揺れ動いていたからである。ところがここ数年はこうした「強国か否か」について、もはや中国人は悩むことがなくなったようだ。強国意識がすでに中国人の内面に矛盾なく定着したからである。

 こうした興味深い中国人の強国意識について、深い洞察の光を当てているのが、上海生まれの作家で、中国社会を風刺する政治小説で知られる陳冠中氏の作品「盛世中国・2013年」だ。このほど新潮社から邦題「しあわせ中国-盛世2013年-」として出版された。合わせて訪日した陳氏へのインタビューを行なった。

 

「描いた未来」が現実化

 この本が香港で最初に出版されたのは2009年。中国で禁書になった本が香港や台湾で売れている、というニュースが流れていたのを覚えている。そのときはざっと目を通しただけだったが、インタビューを前に改めて読んで驚かされたのは、本のなかで「仮想の未来」として設定されている中国の姿があまりにリアルであることだ。

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